日本メナード化粧品は、時間の感じ方に影響を与える香りの特徴について研究を行い、高級感のある香りには、時間の流れを早く感じさせる効果があることを明らかにした。さらに、高級な印象を与える香りをつけた化粧水を使用すると、香りをつけていない化粧水と比べてスキンケアの時間が長くなるとともに、使用後の肌が明るくなった。これらの結果から、香りから受ける印象によって人の時間の感じ方は変化し、特に高級感のある香りは「時間を豊かに感じさせる」とともに、スキンケア製品の丁寧な使用を促し、その効果を高めることが期待される。
同じ長さの時間でも、夢中になっているとあっという間に過ぎ去る一方で、退屈な時間は長く感じるというように、人の「時間の感じ方」はその時の気持ちによって変化する。このような時間の感じ方の変化は、香りによって影響されることも知られていたが、その香りの特徴と時間の感じ方の関係性には不明な点が多くある。
そこで、今回の研究では時間の感じ方に影響を与える香りの特徴について調査した。その結果、香りに「高級感」を感じると時間の流れを早く感じることが明らかになった。さらに、高級な印象を与える香りを嗅いでいる間は、時間の流れを早く感じることを確認した。また、このときの脳活動を計測したところ、時間の感覚に関与する領域の脳活動が抑制されることが明らかになった。このことから、高級感を感じる香りは脳に作用し、「時間の感覚を忘れさせる」ことで、時間の流れを早く感じさせていると考えられた。
また、高級な印象を与える香りをつけた化粧水と香りのない化粧水を使用した場合、香りをつけた化粧水の方が、使用時間が長くなるとともに、使用後の肌の明るさも向上した。
今後、この研究成果をもとに、スキンケアの質を高める香りの開発などへ応用していく。なお、同研究の成果は2025年9月15~18日にかけてフランスのカンヌで開催される第35回国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)学術大会にて発表する。
①時間の流れを早く感じさせる香りの特徴は「高級感」
女性17名(20~50代)を対象に、印象の異なる8種類の天然香料を用いて、主観的な時間の長さ(時間の感じ方)に影響を与える香りの特徴について調査した。主観的な時間の長さの評価は、それぞれの香りを嗅いでいる間に、被験者が30秒経過したと感じたタイミングでストップウォッチを止めてもらうことで評価を行った。この評価時間が実際の30秒より長い場合、被験者は時間の流れを早く感じていたことを示す(図1)。香りの評価は、それぞれの香りを嗅いだときの印象について「心地よい」「わくわくした」「上品な」など、18項目に対して、「全く当てはまらない(1点)」から「非常によく当てはまる(6点)」までの6段階で回答してもらうことで評価を行った。この回答を用いて因子分析(多数の項目に対する回答から、回答者の反応が似ている共通した因子を見つける統計手法)を行い、香りの印象を「心地よさ」「魅力感」「爽快感」「高級感」という四つの因子に分類し、それぞれの香りが各因子の特徴をどの程度強く持っているかを示す因子得点を算出した。

図1:主観的な時間の長さの評価方法
これらの結果をもとに、PLS分析法(偏最小二乗回帰分析法。目的とする変数〈評価時間〉を説明するために、複数の説明変数〈心地よさ、魅力感、爽快感、高級感〉がどれほど影響するのかを調べる分析方法。各説明変数の影響度合いを「標準化偏回帰係数」として数値で示し、正の値で大きいほど説明変数が目的変数を増加させることに強く影響していると判断できる)を用いて、香りの四つの因子が評価時間の長さにどれほど影響しているのかを解析した。その結果、「高級感」が評価時間を長くさせること(時間の流れを早く感じさせること)に、最も強く影響を与えていることが分かった(図2)。以上の結果から、高級感を感じる香りが時間の流れを早く感じさせると考えられる。

図2:評価時間に影響を与える因子
②高級感のある香りが時間の感覚に関わる脳活動を抑制する
高級感のある香りが時間の感じ方に及ぼす影響を確認するために、化粧品に用いられる調合香料の中から、多くの人に高級な印象を与えると考えられる香りを香料開発に携わる2名で選定し、この香りを嗅いだ場合と香りがない場合において、女性16名(20~50代)を対象に、①と同じ方法で30秒の時間評価を行った。その結果、香りを嗅いだ条件では香りがない条件よりも評価時間が長くなった(図3)。これは、被験者が時間の流れを早く感じたことを示している。

図3:評価時間の比較
また、この時の脳活動についてfNIRS(functional Near-Infrared Spectroscopy;機能的近赤外分光法。近赤外光を使用し、脳活動の変化を可視化する方法。生体を透過した近赤外光を解析することにより、脳活動と連動する血中のヘモグロビン濃度の変化をとらえ、脳活動の指標とする)装置を用いて計測したところ、時間の感覚に関与する右前頭前野が、香りがない条件では活性化されたのに対して、香りを嗅いだ条件ではその活性化が抑制された(図4)。

図4:右前頭前野における脳活動の比較
これらの結果から、高級感のある香りは、時間の感覚に関わる脳活動を抑えることで、時間の流れを早く感じさせることが考えられる。
③高級感のある香りが化粧水の使用時間を長くする
高級感のある香りがスキンケアにどのような影響を与えるか調べるために、女性14名(20~50代)に対して、②で選定した高級な印象を与える香りをつけた化粧水と、香りをつけていない化粧水の使用時間(化粧水はコットンになじませた状態で使用し、顔全体に塗布するのにかかる時間を使用時間として計測した)を比較した。その結果、香りをつけた化粧水を使用した時の方が、使用時間が長くなった(図5)。さらに、使用前後の肌の明るさを測定したところ、香りをつけた化粧水のほうが使用後の肌が明るくなった(図6)。

図5:化粧水の使用時間の比較

図6:化粧水の使用前後における肌の明るさの変化の比較
以上の結果から、高級感のある香りは、スキンケア製品の丁寧な使用を促すことで、スキンケア効果を高めることが期待される。