ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業は、化粧品開発支援AIシステム「AIM POLAR(エイム ポーラー)」を開発した。AIとの共創で、よりクリエイティブかつスピーディーなモノづくりを実現し、先駆的な製品の研究開発を推進していく。
ポーラ化成工業では創業以来、化粧品づくりにおいて使い心地に直結する「感触」を大切にしている。近年では、未来を先取りした新しい感触や、お客一人一人が望む感触を提供するパーソナライズ化粧品の実現など、独創的かつ先駆的なモノづくりを極めたいと、独自AIの研究開発に取り組んできた。
この度、「目標の感触を実現する最適な成分組成(処方)」を予測するAIを構築した。同AIは、化粧品の開発者が行うモノづくりと同じように、実現したい感触をもとに処方例を予測する機能とともに、カギとなるであろう成分を提示するように設計されている。開発者は自身のアイデアに、膨大なデータに基づくAIの予測結果を組み合わせたり、的確に有力な処方を絞り込み試作の回数を減らしたりして、クリエイティブかつスピーディーに最適な処方を創出することができる。さらに、化粧品の開発に必要不可欠な「品質を予測するAI」も構築し、これまでに構築したAIをすべて統合してAIシステム「AIM POLAR(エイムポーラー)」を完成させた(図1)。
「AIM POLAR」という名称には、「化粧品開発における究極の地を目指す」という意味を込めた。人とAIの共創により、最果てにある未踏の領域に挑み新たな価値を開くことで、製品の先駆性・革新性を高めようという意思を反映している。 また、ポーラ化成工業の英字ロゴに用いられる“POLA R&M”と、“AI”を組み合わせたアナグラムにもなっている(図2)。
同社は、急速に多様化する化粧品へのニーズに応えるため、先駆的な製品をいち早く生み出し続けたいと考えている。先駆的なモノづくりをスピーディーに進めるためには、開発者の個性やクリエイティビティに溢れる発想の他、製品に関する知識や長年のノウハウに紐づくデータを整理し上手く活用する必要がある。「AIM POLAR」には、同社が保有する数百種類もの製品に関するデータ(処方や感触、品質など)を学習させ、代々連綿と紡いできた処方設計の独自ノウハウを凝縮した。これにより、同社が長年大切にしてきた、使い心地の良いこだわりの詰まった感触や、安全性や安定性などの品質を総合的に考慮した“ポーラ化成工業らしい”処方例を瞬時に提示することができる。このように、「AIM POLAR」は先駆的なモノづくりの強力な共創パートナーとなる。
これまでの感触設計は、多種多様な原料を組み合わせた処方について、試作・評価を繰り返すことで最適な処方を決定していた。これに対し、「AIM POLAR」ではその検討の大半を机上のみで実施できるため、試作回数を大幅に減らしてよりスピーディーに進めることができる。さらに、試作回数が減ることで廃棄物が削減され、環境負荷の低減にも貢献できる。
「AIM POLAR」の活用事例として、AI予測による化粧品の感触設計について一例を紹介する。「AIM POLAR」は、感触をレーダーチャートにより視覚化することができる。ある目元専用クリームの開発では、お客のニーズの変化に合わせ、従来品の「なめらかにのび、しっとりうるおう」感触を一新し、「クリームがしっかり目元に密着し、うるおいとハリを実感できる」感触を目指すこととした。そこで、しっかりした密着感につながる“かたさ”“被膜感がある”を向上させ、うるおいとハリの実感のため“しっとり”は維持しつつ“ハリがある”を向上させる目標スコアを設定、「AIM POLAR」にそれを実現する処方を提示させた。
さらに、品質の予測結果から問題のない処方を絞り込み、開発候補品として選定した。 開発候補品のレーダーチャートからは、目標を満たす処方例を設計できていることが分かる(図3)。実際に試作して感触を評価したところ、特徴的な四つの感触を狙い通り実感することができた。数名の開発者による使用テストでは、「クリームを塗り広げると目元にしっかり密着し、うるおいが続きハリを感じることができる」との評価結果だった。
このように、「AIM POLAR」を活用した机上検討により候補を絞り込み、有力な処方のみを実際に試作・評価することで、製品開発をスピーディーに進めることができる。「AIM POLAR」による感触設計は、実際の製品開発でも活用を広げている。
なお、本開発は株式会社SBXと共同で実施した。SBXは、Create an Engine for Scientific Discoveryをビジョンに掲げ、バイオメディカル分野を中心にさまざまな課題のソリューションに取り組む企業だ。2011年、NPO法人システム・バイオロジー研究機構(SBI)の基礎研究の成果を社会実装するための架け橋として設立された。バイオメディカル分野で培った豊富な研究経験・専門知識をベースに、創薬、臨床、ヘルスケア、さらに広範な分野でのサイエンスを支援する高度なインテリジェントサービスを提供している。
「AIM POLAR」の活用は、既存のモノづくりの範疇には留まらない。アイデアの壁打ち相手として開発者のクリエイティビティを刺激し、創造力を引き出すツールとしても活躍する。また、開発者に短期間で多様な処方設計に触れる機会を与えることができるため、スキルアップツールとしても活用できると期待。「AIM POLAR」を活用することで、まだ実現できていない新感覚の感触など、お客が楽しめる、わくわくするような新製品の創出につなげる考えだ。