ニベア花王は、しわやたるみといった皮膚の老化に対する研究の中で、植物由来のレチノール類似物質と呼ばれている「バクチオール」のコラーゲン産生促進作用を、老化が進んだ皮膚においても効果的に発現させる成分の組み合わせを発見し、その作用メカニズムを見いだした。

「バクチオール」の真皮のコラーゲン産生促進作用には、細胞内エネルギー産生が関与していることを見いだした。また、その作用は「コエンザイムQ10(CoQ10)※1」や「3-ヒドロキシ酪酸ナトリウム(3-HB)※2」の併用で向上し、さらには老化が進んだ皮膚において顕著に向上することを発見した。「バクチオール」と「コエンザイムQ10」「3-ヒドロキシ酪酸」を組み合わせることで、老化によって減少するコラーゲンの産生を促進し、皮膚のしわやたるみを目立たなくする効果が期待できる。またATPとはアデノシン三リン酸のことで、生体内の様々な反応に必要なエネルギーの分子本体である。

※1:ミトコンドリア内電子伝達系においてATPを合成する経路で必要な補酵素

※2:ケトン体と呼ばれ、生体内においては脂肪の分解からも生成し、変換されると、ATPを合成するクエン酸回路で利用される3-ヒドロキシ酪酸のナトリウム塩

同研究成果の一部は2025年6月13~15日に開催された「第25回日本抗加齢医学会総会」にて発表した。

老化には、加齢や生活環境などによって生じる生理的老化と、太陽からの紫外線が影響を及ぼす光老化がある。皮膚の生理的老化が進むと、皮膚細胞内のエネルギー代謝が落ち、コラーゲン産生やターンオーバーが低下し、その結果、しわやたるみ、くすみといった外観の変化につながる。

バクチオールはオランダビユの種子から得られる機能性成分で、皮膚に対するその機能性から植物由来のレチノール類似物質とも呼ばれている。皮膚のしわやたるみに効果のある抗老化成分として知られるレチノイド類はコラーゲン産生やターンオーバー促進など強い作用が認められるが、光や熱に対し比較的不安定な成分で、濃度や使用方法によっては、刺激を感じてしまうこともあると言われている。それに対し、バクチオールはより安定でマイルドな成分と言われており、老化対策成分として期待されている。

そこで、皮膚の老化に対するアプローチとして、バクチオールの機能をより効果的に高める研究に取り組んだ。

バクチオール (Bakuchiol)

研究の結果、

①バクチオールの真皮コラーゲン産生促進作用は老化が進んだ皮膚において効果が低いことを発見

②バクチオールの真皮コラーゲン産生促進作用は、細胞内エネルギーが関与していることを発見

③「バクチオール」に「コエンザイムQ10」や「3-ヒドロキシ酪酸ナトリウム」を組み合わせることで、老化が進んだ皮膚においても、コラーゲン産生を促進できることを発見

の三つが分かった。

①バクチオールの真皮コラーゲン産生促進作用は老化が進んだ皮膚において効果が低いことを発見

バクチオールは表皮下層における真皮においてI型コラーゲンの産生を促進する作用が知られている(AnikaBluemke, etal. IntJCosmetSci. 2022;44:377–393.)。コラーゲンは真皮の主成分で、皮膚の内側からハリや弾力を保つ働きを持っている。しかしながら、真皮の細胞である皮膚線維芽細胞は、老化が進むとコラーゲン産生能が低下し、皮膚のハリや弾力を維持する機能が低下してしまう。そこで、皮膚線維芽細胞に対し、バクチオールのコラーゲン産生促進作用を調査した。その結果、バクチオールは定常状態の皮膚線維芽細胞においては高いコラーゲン産生促進作用を示すのに対し、老化誘導した皮膚線維芽細胞においてはその作用は認められず、老化が進んでしまった皮膚では充分な効果が期待できない可能性が示唆された(図1)。

図1は定常/老化誘導皮膚線維芽細胞に対するバクチオールのコラーゲン産生促進作用。青(a)は定常皮膚線維芽細胞、オレンジ(b)は老化誘導皮膚線維芽細胞。(a:n=4、** P < 0.01、Student’s t-test、b:n=3、N.S.:not statistically significant、Student’s t-test)

②バクチオールの真皮コラーゲン産生促進作用は、細胞内エネルギーが関与していることを発見

次いで、バクチオールの真皮におけるコラーゲン産生促進作用の作用発現のメカニズムを調査した。皮膚は老化が進むと細胞内のエネルギー(ATP)代謝が低下し、それに伴ってさまざまな生理活性が低下すると言われている。そこで、バクチオールのコラーゲン産生促進作用とATPの関係を調査するために、定常皮膚線維芽細胞において、バクチオール濃度を変えて作用させた場合のコラーゲン産生促進作用の変化と、さらにミトコンドリアATP合成酵素産生の阻害剤であるオリゴマイシン(Oligomycin)を併用した場合の、その影響を確認した。その結果、定常皮膚線維芽細胞においてはバクチオールの濃度依存的にコラーゲン産生量が増加したが、ATP産生を阻害すると、その作用が消失することが確認できた(図2)。このことから、バクチオールの皮膚線維芽細胞のコラーゲン産生促進作用の発現には、細胞内のATP産生が関与していることが示唆された。

図2はバクチオールのコラーゲン産生促進作用に対するATP産生阻害剤オリゴマイシンの作用。(n=3、**:P < 0.01、##:P < 0.01、Student’s t-test)

③「バクチオール」に「コエンザイムQ10」や「3-ヒドロキシ酪酸ナトリウム」を組み合わせることで、老化が進んだ皮膚においても、コラーゲン産生を促進できることを発見

コエンザイムQ10や3-ヒドロキシ酪酸ナトリウムは生体内において、エネルギー代謝経路に関わる成分で、細胞内ATP産生を促進する効果が知られた成分である。上述の結果を考察し、定常皮膚線維芽細胞および老化誘導皮膚線維芽細胞において、バクチオールとATP産生促進剤であるコエンザイムQ10または3-ヒドロキシ酪酸ナトリウムを併用した場合のコラーゲン産生量の変化を調査した。その結果、バクチオールとコエンザイムQ10または3-ヒドロキシ酪酸ナトリウムを併用することで、定常皮膚線維芽細胞においてもコラーゲン産生量が向上したが、老化誘導皮膚線維芽細胞においては、特に顕著に向上することが確認できた(図3)。

図3はバクチオールのコラーゲン産生促進作用に対するCoQ10または3-HBの併用効果。(n=3、**:P < 0.01、Student’s t-test)

図左は、(a)バクチオールとCoQ10の併用効果、図右は(b)バクチオールと3-HBの併用効果を表す。

さらに、老化誘導皮膚線維芽細胞において、バクチオールとコエンザイムQ10および3-ヒドロキシ酪酸ナトリウムの3成分を作用させた場合の、コラーゲン線維形成能を調査したところ、この組み合わせにより、コラーゲン線維形成能も向上することが確認できた(図4)。

図4:老化誘導皮膚線維芽細胞のコラーゲン線維形成能の比較(I型コラーゲン線維を蛍光染色)

「バクチオール」による皮膚のコラーゲン産生促進効果の発現には、皮膚内部の細胞のエネルギーが密接に関わっていることが示唆された。また、「バクチオール」に細胞のエネルギー産生に関与する成分の「コエンザイムQ10」や「3-ヒドロキシ酪酸ナトリウム」を組み合わせることで、老化が進んだ皮膚においてもコラーゲンの産生を促進できることが分かった。そのため、これらは「バクチオール」の機能をより効果的に高める組み合わせであると考えられる。「バクチオール」と「コエンザイムQ10」「3-ヒドロキシ酪酸」を組み合わせることで、老化によって減少するコラーゲンの産生を促進し、皮膚のしわやたるみを目立たなくする効果が期待できる。

これらの研究成果は今後の皮膚の抗老化研究、スキンケア製品の開発に活用していく。