ライオンは、歯科医院受診後の患者を対象とした歯科衛生士によるオンラインサポートサービス「OraCo」の口腔衛生意識・行動への有効性を検証した。その結果、歯科医院での指導後に、歯科衛生士がオンラインで患者の指導内容の実践を支援することで、患者の口腔衛生に対する意識が向上することを確認。同アプローチを用いることで、歯科医院での指導内容実践に対する患者の意識、モチベーションが持続し、口腔ケアの習慣化が期待できる。同社は、同研究内容について、新潟県 朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンターにて2025年5月16~18日に開催された第74回 日本口腔衛生学会学術大会で発表した。演題は、「メインテナンス患者向け口腔衛生行動継続支援アプリによる意識・行動変容効果-探索的ランダム化比較試験」。

歯科二大疾病である「う蝕」と歯周病の予防には、生活者自身が行う「セルフケア」と歯科医院への定期的な受診の「プロケア」を両輪で進めることが重要だ。患者に適切な「セルフケア」を継続させるため、歯科医院では歯みがき指導や口腔衛生指導が行われている。しかし、受診時の指導だけでは、患者がその内容を受診後に忘れてしまうなど、指導内容に沿った「セルフケア」を長期間継続することが難しいという課題があった(同社調べ〈歯科医院へのインタビュー調査。協力歯科医院数30、22年4月~24年6月実施〉)。また、デジタルツールを活用した行動支援の有用性(Fernández,C.E.,et al.”Teledentistry and mHealth for promotion and prevention of oral health: a systematic review and meta-analysis. “Journal of dental research 100.9(2021):914-927.)が注目されてきたが、歯科衛生士が患者と継続的に接点を持ち、日常の「セルフケア」をサポートする取り組みの効果については、これまでほとんど報告されていない。そこで同社は、歯科衛生士が患者のセルフケア行動をオンラインでサポートする「OraCo」の有用性を検証した。研究方法は以下の通り(図2)。

・対象者:歯科医院受診後、アプリによる行動支援を3ヵ月受けた「アプリ利用群」25名及び、アプリを使用しない「アプリ未利用群」25名(20~59歳)

・行動支援:「アプリ利用群」にはアプリを通じ、受診時の口腔衛生指導内容に応じた個別の行動課題を3ヵ月間で計15回配信

・評価方法:開始前、開始後1、4、8、12週の計5回のアンケート調査を実施

・評価項目:口腔衛生意識・行動変容に関する項目(S chwarzer Rが提唱した健康行動変容理論Health Action Process Approach Modelの変数に基づく設問)(表1)

口腔衛生意識と行動変容に関する変数項目の中で、「アプリ未利用群」と比較して「アプリ利用群」で有意に評価が高かった項目は、セルフケアの動機付けに繋がる「リスク認知」と、行動変容に繋がる意図段階である「回復自己効力感」「対処計画」だった(図3)。

具体的には、う蝕または歯周病になりやすいと思うかといった「リスク認知」について、「アプリ利用群」では開始1週間後から向上する傾向が見られ、4週間後には有意に向上した。さらに、歯科医院での指導内容を2~3日中断後も再びセルフケアを開始できる自信があるとした「回復自己効力感」と、歯科医院での指導内容を忘れてしまった時、次から忘れないようにするための工夫やコツを明確にわかっているとした「対処計画」についても、「アプリ利用群」で有意に評価が向上した。これらの結果は、患者がう蝕や歯周病を自身に起こりうるリスクであると認識し(リスク認知)、適切なセルフケアを継続することへの自信を持てるようになった(回復自己効力感、対処計画)ことを示している。

また、「アプリ利用群」の自由記入アンケート(表2)では、歯科衛生士によるオンラインサポートによって、通常よりも口腔ケアを意識して継続できたとの回答があった。これらのアンケート回答から、指導内容を簡単に復習できること、患者が理解しやすい画像や動画で説明すること、歯科衛生士が伴走支援することなどが、患者の口腔ケアのモチベーションの向上と、行動変容に重要であることが示唆された。

以上の結果から、歯科医院受診後に歯科衛生士が口腔ケアのオンラインサポートを行うことで、患者の口腔衛生意識が向上することが確認された。また、これまで難しいとされてきた歯科医院での指導内容に基づく口腔衛生行動(セルフケア)の継続に繋がることが示唆された。今後は、アプリに蓄積された患者データの歯科医院での口腔衛生指導への活用や、口腔機能などセルフケアが重要な症状への応用展開についても検証していく予定だ。ライオンは、同研究で得られた結果を活用しながら、オーラルヘルスケア習慣を広めていき、人々のより良い習慣づくりに貢献していく考えだ。