コーセーは、水溶性成分を肌深くまでムラなく浸透させる「高親水性リポソーム」を開発した。同技術には化粧水の肌なじみを高めることで、より均一に肌表面に製剤を拡げる効果も確認されており、水溶性の美容成分を肌に深く、ムラなく届けることが可能となる。
スキンケアにおいて、お手入れの効果を実感できることは日々使い続けるうえで大切な要素だ。スキンケアの中でも、化粧水はみずみずしい使用感とうるおいが感じられる人気アイテムであり、成分の浸透による肌効果についても期待が寄せられている。一方、肌表面は油と親和性が高い構造であるため、化粧水に多く含まれる水溶性成分を肌内部に浸透させることについては技術的な工夫が必要とされてきた。
そこで同研究では、同社が40年以上にわたり研究してきた独自のリポソーム技術に着目した。リポソームは0.1~0.3マイクロメートル(1マイクロメートルは1ミリメートルの1000分の1)の微小なカプセルであり、同社が得意とする多重層リポソームは油の層と水の層が交互に存在するため、水溶性成分を内部に保持できる構造となる。また、リポソームの主成分は生体由来成分のリン脂質であるため、肌との親和性が高く、そのままでは肌となじみづらい水溶性成分の浸透を高める効果が期待できる。そこで、今回は化粧水における水溶性成分の浸透をより一層高める新たなリポソーム開発に取り組んだ。
新たなリポソームを設計するにあたり、リポソームの主成分であるリン脂質の種類に注目した。リン脂質は親水性と親油性の両方をもつ素材だが、中でも親水性に優れたリン脂質を組み込むことで、水溶性成分の肌への浸透性をより高めることを目指した「高親水性リポソーム」を開発した。この高親水性リポソームは電子顕微鏡の観察により多重層構造が確認できており(図1左)、化粧水の中でも安定にその構造を維持できることも確認できた。

図1:高親水性リポソームの浸透性評価
はじめに高親水性リポソームの浸透性への影響を評価するため、リポソームと水溶性の蛍光色素を配合した化粧水を作製し、ヒトの皮膚に塗布して、その断面を蛍光顕微鏡で観察した。その結果、リポソームを含まない化粧水では、色素が角層の一部のみに観察されたのに対し、リポソーム化粧水では色素が角層や表皮まで浸透していることが分かった(図1右)。さらに、角層および表皮への色素の浸透率を定量的に解析したところ、角層、表皮ともにリポソーム化粧水の浸透率が向上していることが確認できた(図2)。このことから、高親水性リポソームは水溶性成分を肌深くまで効率的に浸透させられることが分かった。

図2:高親水性リポソームの浸透性評価(定量分析)
次に高親水性リポソームを配合した化粧水の肌との親和性を評価するため、リポソームを含む化粧水を肌に滴下し、肌との接触角を測定した。これは肌表面と液体表面がなす角度を比較するもので、両者の親和性が高いほど、液体がぬれ拡がって角度は小さくなる。その結果、リポソーム化粧水の接触角は含まない化粧水よりも小さく、肌なじみが高まっていることが分かった(図3)。

図3:高親水性リポソーム化粧水の肌なじみ評価
また、水溶性の色素で着色したリポソーム化粧水をヒトの皮膚に塗布し、顕微鏡でそのぬれ拡がりを観察した。その結果、リポソームを含まない化粧水は小さな皮溝など、細かな凹凸部分に十分に拡がっていなかったのに対し、リポソーム化粧水は細かな凹凸を含めて、肌表面にムラなく拡がっていた(図4)。このことから、高親水性リポソームは化粧水の肌なじみを高め、水溶性成分を肌表面にムラなくぬれ拡げることができると分かった。

図4:高親水性リポソーム化粧水の肌表面へのぬれ拡がり評価
さらに、高親水性リポソームによる化粧水のぬれ拡がりの効果をよりミクロな視点でも検証した。水溶性の蛍光色素を配合したリポソーム化粧水をヒトの皮膚に塗布し、角層への浸透を蛍光顕微鏡により観察した。その結果、リポソームを含まない化粧水では色素が一部の角層細胞にしか分布していなかったのに対し、リポソーム化粧水では角層細胞一つ一つにムラなく浸透していることを確認した(図5)。

図5:高親水性リポソーム化粧水の角層への浸透性評価
特に注目すべき点として、リポソーム化粧水では、水溶性成分の浸透が難しいとされる細胞間脂質(角層細胞の間にある脂質)においても色素の均一な分布が観察された。以上の結果から、高親水性リポソームは水溶性成分を角層細胞のレベルでムラなく浸透させることができる、有用な技術であることが実証された。
同研究により、水溶性成分を肌深くにムラなく浸透させる技術として「高親水性リポソーム」を開発することができた。同技術を応用することで、保湿や美白、エイジングケアなど水溶性成分の機能をより一層引き出す製品開発が可能となる。同社は今後も、皮膚科学と製剤技術の融合を通じて、人々の肌悩みに寄り添い、有用なソリューションを提供するべく、研究・開発を進めていくとしている。