ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担う、ポーラ化成工業フロンティアリサーチセンターの中村萌研究員が、第21回日本感性工学会春季大会において優秀発表賞を受賞した。消費者の「自由な言葉」で表現される触り心地を、物性データと結び付けて設計に生かす新手法を提案した発表が評価された。現在は、この手法の化粧品設計への活用に取り組んでいる。
受賞演題は「自由記述データに基づく触覚印象と物理的特徴の対照学習―触りごこちを伝える『自由なことば』を設計につなぐ―」。
触り心地は、多くの製品において、生活者が「この化粧品を使い続けたい」と思うかどうかを左右する大切なポイントだ。化粧品は肌に直接触れ、毎日のように使うものである。そのため、成分による効果だけでなく、使った時の感触そのものが満足度に直結する。また、製品の機能にマッチした触り心地が得られると、納得感や信頼感が高まり、ブランド体験としての価値向上にもつながる。
生活者は感触の印象を「雪のようにすっと溶ける感じ」といった自然な言葉で表現するのに対し、開発現場ではそれを要素に分けた「評価語」や「物性値」に置き換えて製品設計へ反映する必要があり、その接続には多大な労力がかかる。また、その過程で微妙なニュアンスや文脈が失われてしまうことも考えられた。
そこで同研究では、身の回りのさまざまなアイテムの触り心地を自由記述で表現したデータを数値で扱えるように変換することで、言語と物性を同じ枠組みで捉える対照学習という手法を提案した(図1)。
同研究では、自由記述(言語)と物性データを近づけて学習させる対照学習により、両者を同一の表現空間で扱うことを目指した。日本語埋め込みモデル「PLaMo」を用いた自由記述モデルは、評価語を用いたモデルと比べ、ゼロショット推定(学習に含まれない条件での推定)において高い性能を示した。
すなわち、自由記述から物性値の推定や、触り心地が近いアイテムの特定などが可能になり、評価語では捉えにくい微妙なニュアンスや文脈情報を反映できる。
同手法により、これまで取りこぼされがちだった触覚ニーズを抽出し、触り心地を設計に生かすための基盤づくりが進む。将来的にはレビューやSNS投稿などの自由記述も活用することで、市場の潜在ニーズ把握や設計支援の高度化につながる。
ポーラ化成工業では、2025年10月より大阪大学との共同研究を進めている。大阪大学大学院基礎工学研究科の堀井隆斗准教授は、ヒトの感情機能の発達原理や触覚コミュニケーションを研究しており、同共同研究でも、認知発達ロボティクスの観点を取り入れながら、感性研究とロボティクスを横断する新たなアプローチを検討している。今回の成果は、抽象的表現を含む文章を、モデル化につなげるための基盤的知見の一つだ。
この観点は化粧品における感性研究に新たな広がりをもたらす。人が感じ方を形成していくまでの要素とプロセスを分解し、成り立ちから捉えることで、化粧行為を含む多様な経験に対する感じ方をモデル化する新たなアプローチとして期待されている。
中村研究員は、25年にポーラ化成工業に入社し、感性研究に従事。感性、脳や中枢神経、内受容感覚などに関心を持ち、生活者理解につながる研究に取り組んでいる。
以下は中村研究員のコメント。
「本研究では、『自由な言葉』を感性の宝庫と捉え、まずは世の中にある多様な触り心地を対象に、物性と結び付けて扱う新たな枠組みを提案しました。今後は、この知見を基盤として、化粧品ならではの繊細な触り心地や使用文脈により焦点を当てながら、研究をさらに発展させていきたいと考えています。ポーラ化成工業は、グループ理念『感受性のスイッチを全開にする』のもと、化粧品の枠を越えた研究を通じて美とコミュニケーションの発展に貢献していきます」























