ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業は、肌の角層の細胞間脂質中に水分(=うるおい)を保持できる水層があることに着目し、その容量を増大することで細胞間脂質のうるおいを飛躍的に向上する技術を構築した。同技術は、角層がうるおいを含み、膨潤したハリ肌を実現する手段として活用される。

肌にうるおいを与える方法として、これまでは角層への浸透性が高い成分や肌なじみが良い成分が主に使われてきた。しかし肌がうるおいを保持できる容量には限界があるため、それらの成分が無限に浸透するわけではない。そこで、角層内の細胞間脂質の「層構造」に働きかけることで、肌が保持できる水分量を増やすことを考えた。細胞間脂質は、水となじみやすい「水層」と油となじみやすい「油層」が層構造を形成している(図1)。このうち「水層」は、水分を保持できることから、角層における“うるおいタンク”の役割を果たしている。そこで水層の厚み(面間隔)を増やし、うるおいタンクの容量を大きくする検討に着手した(図2)。

うるおいタンクを大きくするためには、細胞間脂質の水層と油層の境界に留まりやすく、かつ水を抱え込みやすい集合体を形成することが有効と同社は考え、そのような機能性成分を選定した。次に、この成分を配合した化粧水タイプの開発品を作り、人工の細胞間脂質(細胞間脂質のモデルとして、トリイソステアリン酸 PEG-20グリセリル、2-エチルヘキサン酸セチル、水を混合し使用)に少しずつ水を添加し面間隔の変化を計測した結果、開発品では細胞間脂質の水層の面間隔が約125%に広がったことが確認できた(図3)。すなわち、“うるおいタンク”が大きくなり、多くの水分を抱え込めるようになったと考えられる。

液体・ゲル・粉末など試料の形態を維持したままで、詳細な構造を明らかにすることができる方法としてSAXS(小角X線散回折装置)というものがある(図4)。この方法では、結晶・液晶の種類や、それらの規則的構造のサイズなどを知ることができる。同研究では、これを細胞間脂質の面間隔測定に用いた。機能性成分を加えた細胞間脂質は水を添加したときに面間隔が大きく拡張した(図3)ことから、この結果は水層の面間隔の広がりを捉えていると判断できる。

さらに、細胞間脂質の水相がうるおいで満たされることで、肌の触り心地がふっくらすることが期待できる。そこで細胞間脂質の弾力の計測を試みた。弾力を測る手法として知られているレオメータを用いて、人工の細胞間脂質に機能性成分を加えた際の弾力を測定した。サンプルに対し上から力をかけ、その後に力を緩めるというサイクルを3回行うと、機能性成分を加えたサンプルは、未配合のサンプルより高い弾力を示すことが判明した(図5)。これにより、機能性成分で“うるおいタンク”に働きかけることで、機能性成分により弾力が約8倍に高まることが確認され、肌のハリ・弾力のアップに寄与する可能性が示唆された。

以上の結果より、同研究で選定した機能性成分によって細胞間脂質の“うるおいタンク”を大きくし角層をより多くのうるおいで満たせること、また同時に弾力のあるハリ肌を実現できると考えられる。同技術は、ローションをはじめ、スキンケア品やメイク品など、さまざまな製品に活用する予定だ。同社では今後も、お客のニーズに応える新たな技術の開発を行っていく。