この春、娘が小学校に入学した。満開の桜と重なった、パープルのランドセルを背負う娘の姿は、忘れられそうもない。入学式には出られなかった。どうもまじめな校風らしく、参加は大人2人まで、未就学児はNG。式には妻が出て、ぼくは息子と校庭で遊んだ。大きなアリの巣を見つけては騒ぎ、働く車が通れば声をあげて指をさす。ゆったりと流れた、この時間も忘れられないだろう。何ごとも節目は記憶に残る。ある企業の入社式に呼ばれた。司会の社員は「新入社員の皆さま」と切り出したが、「さま」と呼ばれるのは、あと数十分だけ。その後は喜びと苦難を繰り返し、成長と結果を求められる日々が続く。そこに人生の醍醐味が生まれると思うのは、ぼくだけか。給食の献立はばっちり覚える娘も、少しずつ、そんな日々を過ごすようになるのだろう。いずれにせよ、その人らしく頑張り続けてほしい。成長の唯一の道だと思うから。

月刊『国際商業』2025年06月号掲載