サンスター
唾液中のF.n.菌が口腔内細菌の増殖を助長することを発見
サンスターグループ(以下、サンスター)は、歯周病の病態を解明する調査研究を通して、唾液中のFusobacterium nucleatum(フゾバクテリウム・ヌクレアタム、以下:F.n.菌)の存在割合が、歯周病の悪化原因であるレッドコンプレックス(Porphyromonas gingivalis〈P.g.菌〉、Treponema denticola〈T.d.菌〉やTannerella forsythia〈T.f.菌〉など歯周病の原因となる病原性の高い細菌の総称)や新種の歯周病菌など含む計28種類の口腔内細菌の割合に相互に影響を及ぼしていることを新たに発見した。2015年から歯周病進行予防の新たな戦略の糸口をつかむ目的で、20〜75歳までのサンスター従業員611名を対象に、唾液中に存在する口腔内細菌種と歯周病の病態(進行状況)との関連性を調査してきた。唾液中のF.n.菌の存在割合の増加に伴い、歯周病菌の中でも病原性の高いレッドコンプレックスが増加することが確認され、歯周病発症との高い関連性を示すことが明らかとなった。この研究結果は、22年に日本歯周病学会学術大会で発表されている。
そして、この度、詳細な解析を続けた結果、唾液中のF.n.菌の存在割合が高くなると、口腔内で検出される細菌の種類も増加することを新たに発見した。さらに、F.n.菌は、レッドコンプレックスだけでなくFilifactor alocis(フィリファクター・アロシス)やFretibacterium fastidiosum(フレティバクテリウム ファスティディオスム)などの新種の歯周病菌にも密接に関係していることが確認された。これにより、F.n.菌の存在割合の上昇がレッドコンプレックスや新種の歯周病菌を含む計28種の口腔内細菌の割合の増加要因の一つであることを明らかにした。F.n.菌は、歯周病の原因となるデンタルプラーク(歯垢)の形成において中心的な役割を果たし、歯周病菌の増殖を促進することが知られている。さらに、近年の研究では大腸がんの発症とも密接に関係することも報告されている。この度の成果は、F.n.菌の制御が、多様な歯周病菌のコントロールにおいて重要な鍵となることを示唆しており、最新の歯周病菌対策の指針を提供するものと考えている。一連の成果は、米国微生物学会(American Society for Microbiology)が発行する微生物学の専門誌「Microbiology Spectrum」に掲載され、オンラインでも公開されている。
今回の研究からは、①唾液中のF.n.菌(フゾバクテリウム・ヌクレアタム)の存在割合が高くなると、口腔内で検出される細菌の種類が増加することを発見②唾液中のF.n.菌(フゾバクテリウム・ヌクレアタム)の割合が、レッドコンプレックスや新種の歯周病菌を含む28種の口腔内細菌の割合に相互に影響を及ぼしている、の二つの結果が得られた。
歯周病は、歯を支える歯周組織(歯槽骨、歯肉など)への歯周病菌の感染によって生じる炎症性疾患であり、歯を失う主な原因であることが知られている。また、歯周病は、全身の健康とも深い関わりのある疾患であり、近年では認知症との関連も指摘されるなど、歯学・医学の幅広い分野で注目されている。サンスターでは、これまでに歯周病菌の中でも特に病原性の高いとされるレッドコンプレックスの制御に効果的な殺菌剤である塩化セチルピリジニウム(CPC)を早期に見出し、その有効性を最大限発揮できる処方開発を進めてきた。さらに、22年の研究では唾液に存在する口腔内細菌種と歯周組織の状態との関連性を調査し、F.n.菌の割合が増加すると、歯周病の病態が悪化することを新たに発見した。今回、サンスターはさらなる歯周病進行予防の手がかりを探るため、唾液中のF.n.菌の割合と、唾液に存在する口腔内細菌種の関係について詳細に解析を行った。
本研究では、調査への参加に同意を得られた20〜75歳のサンスター従業員611名を対象とした。被験者から唾液を採取し、次世代シークエンサーを用いて、各サンプルから口腔細菌由来の遺伝子を調べ、細菌叢と歯周病との関連性や、さらにレッドコンプレックスとF.n.菌との関連性について解析を行った。
対象者611名の唾液を回収し、その中に存在する細菌由来の遺伝子情報をもとに口腔内細菌種を解析した。さらに、F.n.菌の存在割合(%)に着目し、四つの分位(Q1<0・2%、0・2≦Q2<0・4、0・4%≦Q3<0・8%、0・8%≧Q4)に唾液を層別化し、それぞれに含まれる口腔内細菌の菌種数を解析した(図)。その結果、F.n.菌の存在割合が最も低い場合(Q1)に比べて、最も高い場合(Q4)では、有意に検出される口腔内細菌の菌種数が増加した(p<0・2)。
唾液中のF.n.菌の存在割合が、口腔内細菌の菌種数と関係し、その多様性に影響していることが明らかになった。そこで、さらに、F.n.菌の存在割合の増加に伴って増える口腔内細菌種について解析を行った。その結果、F.n.菌は、従来から注目されている歯周病菌であるレッドコンプレックスに加え、近年の研究で歯周炎の進行に関連すると明らかになった細菌を含む計28種類の口腔内細菌種と密接に関係することを発見した。F.n.菌は、本来、さまざまな口腔内細菌と凝集する性質を有していることから、互いに影響を及ぼしながら増殖することが示唆された。