ディセンシア西野英美社長

社員のブランド愛を顧客に伝え絆を深める

――オルビス出身者から初の事業会社社長に就きましたが、心境はいかがでしょうか。

西野 私は2002年にオルビスに入社して、こんな商品をつくりたい、と相談すると応えてくれるポーラ化成工業の技術にとにかくほれ込んでいます。たくさんのブランド、商品に携わり、たくさんの仲間と一緒に働いてきました。内示を受けた時は青天の霹靂でしたが、ディセンシアに異動しても、ポーラ・オルビスグループから去るわけではないですから、すぐに冷静になりました。オルビスの女性社員で、課長、部長、執行役員、取締役など、役職を順番に経験した人は私が初めてのケース。私がディセンシア社長を固辞せず、ポーラ・オルビスグループのキャリアパスの多様化を進めなければいけないと思ったんです。

――ディセンシアの現状をどう見ていますか。

西野 ものすごく社員のブランド愛が強い会社です。子育て中の女性社員がお子さんから「ママの仕事は何?」と聞かれた時、肌にすごく興味がある人たちに幸せな時間を提供しているんだよ、と答えたそうです。すてきなブランドが紡ぎ出す商品、サービスをお客さまに使っていただくことで、私たちを含めて幸せな人が増えていく。経済価値と社会価値を兼ね備えたブランドですから、もっと多くの生活者に知っていただきたいと思っています。

――そこに課題がある、と。

西野 ディセンシアの定期継続率は98.8%と驚異的な数値になっています。これはブランドとお客さまの強い信頼関係を示していますから、もっと多くのお客さまに伝えていきたい。この数値はディセンシアの大切な資産です。社員には自信を持ってもらいたいですし、顧客接点開拓やCRM拡大に活用すれば、よりブランド想起率を高められると思っています。また、ディセンシアの社員、組織に宿る人間の肌感、空気感もお客さまに届けたい。例えば、コールセンターの顧客対応力は素晴らしくて、電話口で感動したお客さまから雇用形態を聞かれたことがあるそうです。ディセンシアは正社員を雇用し、ブランドや商品のことを学んでいるから応対力が高い。お客さまは、人材が持つスキルと魅力を褒めてくださったんです。このような人間だけが持つ価値をお客さまに届けるCRMを回せば、ブランドとお客さまの絆は一段と深まり、事業基盤が強くなると思います。

――十分に伸び代はありそうですね。

西野 ディセンシアは、07年に化粧品研究員が創業した企業です。家族を敏感症状の悩みから解放したいという切実な願いから、皮膚の研究を重ね、肌の最表層を整えすこやかな角層へと導く独自技術「ヴァイタサイクルヴェール®」を開発しました。しかし、どれだけ良い商品をつくっても、お客さまに価値が届かなければ意味がありません。オルビス時代、小林さん(現ポーラ社長)から、何が何でも価値を届けるために方策はやり尽くしたのか、と口酸っぱく言われ、あらゆる手段を考え、実行したことは貴重な経験です。ですから、多くの人たちにディセンシアを知っていただき、触れあっていただく時間と思い出す時間を増やしていく。お客さまとの距離感を近づけてきたオルビスのノウハウを生かします。

――理想の社長像はありますか。

西野 昔、管理職とは、みたいな本を読んだこともあるのですが、結局は、その時の仲間や組織によって状況は異なりますよね。ですから、私らしくマネジメントする以外にやるべきことはないと思っています。社員一人一人に近づき、仕事に励む姿を見せることが大事。誰よりもブランドのことを一番熱く語り、その熱量が組織に伝播するぐらい、ディセンシアのブランド価値を広めることに全力投球します。社長就任時の手紙を手書きにしたり、SNSライブ配信も硬くならず、見ている人が楽しいテンションになるよう意識したり、人間性や個性を表現することにこだわる私のことを、社員は面白がってくれているみたいですよ。

――得意の商品開発については。

西野 まだ思案しているところです。ただ、私はビューティーに魅了されて化粧品メーカーの門をたたいたので、敏感肌だから化粧を楽しむことを諦めている人はたくさんいると思います。そこに手を差し伸べるスキンケア以外の商品をつくって、もっとお客さまに喜んでいただきたい。じつは、今の組織では、商品開発は社長直轄のチームなんです。ポーラ化成工業と議論しながら、ディセンシアらしい商品を考えたいと思います。

月刊『国際商業』2025年04月号掲載