オルビス山口裕絵社長
腰を据えて次の成長エンジンを生み出す
――ディセンシアからオルビスへ。今回の異動は、どう受け止めましたか。
山口 最初は驚きましたよ。ディセンシアのリブランディングが軌道に乗り、売り上げを60億円、70億円へと伸ばせる手応えがあったからです。でも、落ち着いて考えると、グループの競争力を高めるには必要なことだと思いました。ポーラ・オルビスグループは、2029年に創業100周年を迎えます。もちろん通過点に過ぎませんが、節目の年に主力ブランドのポーラとオルビスが元気でなければいけない。オルビスを好業績に導いた小林さんにポーラ改革の白羽の矢が立つのは当然のことです。一方のオルビスは、小林さんが築いた事業の骨格が強く、利益ある成長を続けています。この状況を継承しながら、腰を据えて次の成長エンジンをつくることが、小林さんとキャラクターが異なる私の役割だと思います。
――オルビスの強みは何でしょうか。
山口 異動の内示を受けた後、オルビスのスキンケアを使用したのですが、あまりにも品質が高くてびっくりしました。もともと私は1999年にポーラに入社し、PR、広告宣伝、商品開発に携わりました。オルビスの特徴であるオイルカットで、高い保湿感のあるローションを作れるということを知り、商品開発の選択肢が増えました。今後の商品開発に生かしていきます。また、社長に就いてから約20人のマネジメント層に「オルビスのお客さまは、どんな人ですか」と同じ質問をしました。ECに長けた会社ですから、あらゆる情報がデータ化されており、それに基づく顧客分析を話す人が多いのかと思いきや、結果は真逆。誰も数字でお客さまを表現する人はいませんでした。例えば、最先端の流行は気になるけど、もう少しみんなが使い始めてから買う人とか、生活の中でスキンケアは最優先ではないけど、丁寧な暮らしがしたい人とか、子育て中で時間もお金も限られるけど、自分の肌ケアをおろそかにしたくない人など、いろいろなお客さま像を語ってくれたんです。化粧品のブランド価値を磨くのに必要な感性が生む情緒的価値を深く理解している人材がそろっており、そこに強い商品力があるのですから、オルビスの競争力は強いと思います。
――どう強みを磨き続けますか。
山口 ディセンシアでは、組織のつくり方を学びました。じつは失敗経験があるんです。社長就任後、リブランディングに臨んだのですが、社内がブランディング重視と営業企画重視の二つに分かれてしまったんです。どちらからも社長はどっちを選ぶのか、と迫られ、苦渋の決断でブランディングに振り切ることにしました。この決断が失敗の要因になりました。2022年10月にリブランディングした商品を出すと、売り上げは伸び悩み、地を這うような数値が並びました。すぐに改善策を打たなければいけない。そうしたら営業企画重視の社員が「ブランディングに振り切っても落ちないデータがある」と提案し、助けてくれたんです。そこからは組織一丸になってCPA(顧客獲得単価)の効率化を図りつつ、ブランド価値を大事に高める方策を練るようになりました。23年1月に戦略を切り替え、3月以降は右肩上がりに売り上げが伸びていきました。そもそもの間違いは、私が安易にブランディング重視の一方向にかじを切ったことです。両立が難しい施策でも、知恵を絞り、解決策を見いだす方向に導かなければいけなかったと教訓を得ました。
――オルビスも二律背反に挑む組織に導く、と。
山口 いや、もうできているんですよ。5月20日に日本初の超微粒子技術で毛穴奥の汚れにアプローチする「オルビス ザ クレンジングオイル」を発売します。オイルカットが代名詞のオルビスにとって、初のオイルメイク落としです。落ちにくいメイクアップ品が売れ筋になり、メイク落ちに関する肌悩みも増え、メイク落としの機能性へのニーズは高まっています。オルビスは1987年にオイルカットのスキンケアでスタートしましたが、ポーラ化成工業の研究によって、汚れをはね返す水の膜が肉眼では見えない毛穴奥の汚れまで落とす超微粒子による新技術を開発。エマルジョンの技術を活用することで、水で流すと肌にオイルが残らない設計になっています。これがオイルカットが原点のオルビスらしい価値提案ということになります。顧客視点で本質を追求し、常識にとらわれない挑戦を続けられるのは、オルビスの人材、組織が強いからです。
――では、オルビスをどのような企業に導きますか。
山口 ポーラ・オルビスグループにおけるオルビスの役割は、高品質の商品を多くの人たちに届けることだと思っています。生活者の化粧品への感度や期待値を高めることになり、日本の化粧文化を発展させることにつながります。これは誇るべき仕事であり、オルビスの存在意義を高めるためにも追求すべきだと思います。