クラシエ(ホームプロダクツカンパニー)は、通常相分離をするため製品にできない状態にあえて着目し、2種類の低HLB(Hydrophile-LipophileBalance)乳化剤を組み合わせたナノエマルジョンを調整させる技術の開発に成功した。さらに、製法プロセスにおいては液晶相の形成に着目し、エマルジョンの品質保持に必要な増粘剤(ポリマー)を使うことなく、経時安定性に優れたサラサラとしていてべたつかない白濁エマルジョンを調製することが可能となった。また、油性成分を肌に浸透させる効果も高まっていることを確認した。さらに、上記製法プロセスは、製品製造時に高温への加熱を必要としない“コールドプロセス”が可能となり、エネルギー消費量を抑制できるため、環境への配慮も実現した。

今回の研究成果については 、2024年10月、 国際的な化粧品技術の研究発表会である「第34回国際化粧品技術者連盟(IFSCC)イグアス大会2024」で学会発表を行った。また、25年春発売のスキンケア製品に応用する予定だ。

毎日のスキンケアでは、乾燥が気になる際に乳液やクリームを使うことが一般的だ。乳液やクリームといったエマルジョンを使う目的は、肌の表面に油分の膜を作って乾燥を防ぐだけでなく、肌に不足する油分を与えて肌を柔軟にし、健やかにすることが挙げられる。しかし油分を化粧品に配合しようとすると、その品質安定性のために大きな制限が2つあった。1つ目は乳化剤や増粘剤を高配合しなくてはならないことで、べたつきや肌への刺激につながる恐れがあった。2つ目は製造する時に強い攪拌力や加熱が必要であることで、エネルギー面で環境への課題があった。今回、上記の課題を解決して、肌なじみよく効率的に肌に油分を浸透させ、同時に、エネルギー消費量を抑えながら簡単に製造できる、「肌にも環境にもやさしい」スキンケアエマルジョンの開発を目指した。

通常、エマルジョンには水が多く含まれるため、水の中に油を安定に溶かし込むために「水に溶けやすい」乳化剤が用いられる。一方で「水に溶けにくい」乳化剤は水の中で相分離状態と呼ばれる熱力学的に不安定な状態となり、時間とともに分離してしまう。今回、世の中に数多く存在する乳化剤の中から種類や組み合わせを検討し、あえて水に溶けにくい2種の「低HLB乳化剤」である、セスキオレイン酸ソルビタン(SSO)とPPG-13-デシルテトラデセス-24(APP)とを特定の比率で組み合わせることで、相分離状態でありながらも分離を起こさない「白濁しているのに安定な」状態を形成することを見出した。

また、水に溶けにくいこれらを用いてエマルジョンを調製するために、溶媒の水と1,3-ブタンジオールと、これら2種類の乳化剤を用いた疑似三相図を作成し、その特性を検討した。その結果、ある特定の割合で液晶相を形成することを見出した。この液晶相を製造プロセスとして応用することで、本来は分離してしまう組成であっても油を均一に溶かし込むことができ、増粘剤を使わなくても経時安定性に優れた、べたつかず肌なじみの良い白濁ナノエマルジョンを調製することができた。また、液晶相を応用しているため、調製に強い攪拌力や加熱を必要とせず、エネルギー消費量を抑えられた。

乳化剤・水・ブタンジオールの疑似三相図。 開発したエマルジョンは青い★部分の組成で形成される液晶相を応用し、矢印のプロセスで調製

矢印のプロセスで作成された白濁ナノエマルジョンの外観

開発した白濁エマルジョンの肌への浸透性を確認するべく、皮脂の成分の一つを想定したスクワランを配合させて検証。同じ量のスクワランを配合した一般的な乳化剤を用いて調製されたエマルジョン複数種と、肌にスクワランが浸透する量を比較した。各エマルジョンを肌に適量塗布した後、テープストリッピングによって角層を回収し、角層中に含まれるスクワラン量を分析したところ、開発品は通常のエマルジョンと、さらには同量のスクワランを直接塗布したときと比較しても、より多く、かつより深層にまでスクワランを浸透させる作用があることを見出した。均一かつナノサイズにスクワランをエマルジョン化していることだけでなく、あえて水に溶けにくい乳化剤を用いたことで肌へのなじみが高まっているのがその理由だと推測している。これは、少ない油分を適用するだけでスキンケア効果を高めることができる技術であり、化粧料に大量の油分を配合する必要がなくなることから成分の使用量も削減することができると期待され、肌にも環境にもやさしいスキンケア製品開発につながる。

開発品エマルジョンと一般エマルジョンとの角層へのスクワラン浸透量の比較