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売上高1000億円の国内化粧品OEMメーカーの誕生が現実味を帯びてきた。国内最大手のTOAを傘下に持つ日本コルマーホールディングス(HD)は、2024年6月6日にカーライル・ファンドからトキワ・コスメティクス・グループ(以下トキワ)の全株式を取得すると発表。買収額は非公開だが、独占禁止法に基づく許認可をクリアしたのち、株式取得の手続きに入る。買収が実現すれば、日本コルマーHDの売上高は、TOAの635億円(24年3月期)、トキワの299億円(23年12月期)の合計で、930億円超になる。2番手を大きく引き離す圧倒的な企業が生まれることになる。

TOAは、化粧品の全カテゴリーの受託製造が可能だが、特にスキンケアとヘアケアに優位性がある。一方、トキワは、グローバルメイクアップ市場で重要な地位を占めており、開発製造品目で補完し合う関係になり得る。とりわけ、トキワはペンシル関係の製造ノウハウに一日の長があり、「他社が数年で真似できるものではない」(大手化粧品メーカー品質担当役員)。日本コルマーHDによる株式取得後、トキワおよびTOAは独立を維持し、別々の運営を行うことが前提になっており、組織再編などの予定はない。それでも日本コルマーHDの競争力が高まるのは間違いない。

巨大な化粧品OEMメーカーの誕生に化粧品業界は色めきだった。というのも、昨年11月、経済紙「ブルームバーグ」は、カーライル・ファンドが10億ドル(当時のレートで1490億円)でトキワを売却すると報じた。あまりに巨額だったため、売却先として中国や韓国の企業名が浮上しては、消えた。それが一転、国内最大手の日本コルマーHDがトキワを買収したことから、業界内に衝撃が走った。それと同時に、国内企業同士の合併を歓迎する声も多く、大手化粧品メーカー幹部は「メイクアップの豊富なノウハウを持つ人材がいるトキワが海外企業の傘下にならず、一安心」と胸をなでおろした。

一方、売上高2番手以下のOEMメーカーは複雑な心境だ。これまでも日本コルマーHDと業績の差は2倍以上だったとはいえ、自社が強みとするカテゴリーや処方があれば、十分に戦うことができた。ただ、さらに売上規模に差が生じると、取引先への価格を含む提案力で太刀打ちできなくなる。「もはや規模を追う競争は勝負が付いた。販路、処方、成分など、自社の強みを今まで以上に際立たせないと、生き残れない」(業界関係者)と危機感をあらわにする。

確かに、独自の原材料や処方技術を保有するOEMメーカーは、取引が消えることはない。ただ、その強みを磨き続けるには、相当な投資が必要である。その点は1000億円企業の方が有利だ。そうなると、単独で生き残るOEMメーカーの数は限られる可能性が高い。今回の日本コルマーHDのトキワ買収は、業界再編の呼び水になるかもしれない。

月刊『国際商業』2024年08月号掲載