横浜の100年企業、太陽油脂がユニークな取り組みを行った。同社の原点は1919年、南洋特産コプラの搾油を行っていた東京搾油社までさかのぼる。太陽油脂になったのは47年。企業理念は「太陽の恵み 人にやさしく地球にやさしく」で、心豊かで健康的な暮らしと社会・自然の持続可能な発展へ貢献するため、油脂加工技術による多様な価値を創造してきた。

太陽油脂という社名は、南洋(現東南アジア)の油脂原料を精製・加工してきた先人の進取の精神を受け継ぎ、燦々と照りつける太陽があまねく万物を育む、明るくいきいきとした会社をもって社会に貢献するように、との願いを込めて命名されたもの。事業は食用加工油脂事業、石けん・化粧品事業、飼料事業の三つ。昨今は食用加工油脂で培った高度な精製技術を石けん・化粧品事業に応用。食品らしい厳格な品質保証体制を満たす技術は、新たな価値創出に結びついている。

事業部門の壁を越えた取り組みの成果、進捗状況を披露し、さらにシナジー創出を加速させようという取り組みが、8月8日に行った「開発中技術展示会」である。企画したのは、石けん・化粧品研究開発グループの佐藤健一郎氏。自社製品から受託製造まで、開発に関わる仕事の中核人材だ。テーマは、こだわりの「自然由来設計」で開発中の技術を披露し、意見交換を行うとともに、ローンチへの期待値を高めること。開発した商品や処方を生活者やクライアントに届けることまで、組織一丸となって取り組む機運を生むのが狙いだろう。

展示は二分野に分かれており、一つ目は「油化学×化粧品」で、独自オイルin化粧水、高浸透ヘアケア用オイル、ワセリン様純植100%バームなどを展示。二つ目は「サステナブル×乳化」で、サーファクチンスキンケア、乳化剤フリースキンケア、レシチン型酸性コンディショナー、石けん乳化型さらさらミルクを紹介。いずれの分野も、市販のベンチマーク品と比較しながら試用体験できるから、自然と会話が弾む。使用感、効能効果に驚く声は何度も上がり、開発担当者は自信を深めたはずだ。

なかでも天然界面活性剤サーファクチンは太陽油脂一押しの原料だ。納豆菌の仲間である枯草菌(Bacillus subtilis)によって生産される環状リポペプチド型のバイオサーファクタントで、七つのアミノ酸がつながって環状となったユニークな構造を有している。わずか3ppmから界面活性剤として働き始めるなど、その構造に由来するさまざまな特性を持つ。極少量で水も油も内包できる安定的なD相(両連続相)を形成できるため、オイルジェルなどのクレンジング剤や微細化粒子乳液の作成にも最適。他の化粧原料と混合したプレミックス品での提供も可能。化粧品については商品企画・処方開発からOEMまで幅広く対応している。欧州認証機関による「オーガニックコスメ原料」も登録済みで、万全の状態で売り込みをスタートする考えだ。

月刊『国際商業』2023年10月号掲載