毎年11月、男性が口ひげを生やし1カ月間を過ごす、「モーベンバー(Movember)」と呼ばれる運動が広がっています。口ひげを生やすという簡単な試みながら、その動機は深いものです。メンタルヘルス、自殺防止、前立腺がんや精巣がんなど、男性の健康問題に対する認識と資金を集めようとしているのです。
モーベンバーのようなチャリティによって、男性のメンタルヘルスに関する話題は大きく広がり、偏見を減らすことができていますが、まだ道半ば。ここでは、男性にとって最も懸念される問題と、男性をサポートするためにブランドができることをご紹介します。
Z世代はメンタルヘルスについて打ち明けることに最も抵抗がある
ミンテルの調査で、ほとんどの男性がメンタルヘルスについて気軽に話すことができることが分かりました。10人に6人の男性が、メンタルヘルスについて医師に相談することに抵抗がないようです。男性が医師に相談をする際、それがメンタルヘルスについてであろうと身体的な問題であろうと、打ち明けやすさに違いはないようです。
慈善団体Movemberは、世界中の男性のヘルスプロジェクトに資金を提供し、医療サービスが男性に届く方法とサポートを変えることを目的としています。出典 :モーベンバー
しかし、Z世代(18〜25歳)の男性に限ると、メンタルヘルスについて話す意欲は40%に低下しています。Z世代は、メンタルヘルスの問題をよりオープンに受け入れやすい世代と言われていますが、必ずしも彼らが助けを求める力が強いというわけではありません。一部のZ世代が悩みを共有することに前向きであることは事実ですが、それがすべての人に当てはまるわけではないのです。
しかし、ミンテルトレンドの「オープンダイアリー」に書かれているように、Z世代はソーシャルメディア上では、深刻で個人的な話題について議論する場合でも、声高に主張することが分かっています。18〜24歳の男性の多くは、メンタルヘルスやウェルビーイングについて、会って話すよりもオンラインで話す方が圧倒的に気楽だと感じているようです(※)。Z世代の男性は、ライフスタイルのさまざまな部分でも同様に、オフラインよりもオンラインの方が快適だと感じています。
※参照(ミンテルのリポート:英文)
UK Managing Stress and Wellbeing Market Report 2021
https://store.mintel.com/report/uk-managing-stress-and-wellbeing-market-report
若い男性の不安は尽きない
若い男性が自分のメンタルヘルスについて医師に話したがらないのは、年長者に比べて自分たちの精神的な健康状態が良くないと考えているためです。18歳から34歳の男性の5分の1近くが、自分の精神状態を「やや不健康」または「非常に不健康」と表現し、ストレスや不安を引き起こす要因をより多く報告しています。新型コロナウイルスによるパンデミックは、「常につながっているデジタル世界で生きる」という強いプレッシャーにすでに直面していた若年層に打撃を与えました。また、ソーシャルメディアの影響も看過できないものがあります。ソーシャルメディアには、インフルエンサーやセレブリティの編集された画像があふれ、非現実的な体型や「ライフスタイルの目標」を押し付けています。
Z世代の男性にとって、体型に関する悩みが不安の原因のトップであることは、当然のことかもしれません。
ライフステージに応じた悩み
男性は、人生においてさまざまなストレス要因に直面します。18〜24歳では、ボディイメージと人間関係が主な不安要素です。20代半ばになると、60代半ばまで経済的な問題が最大の不安要素になります。特にミレニアル世代では、インフレが40年ぶりの高水準に達しており、多くの世帯が収入の圧迫に直面しているため、こうした金銭的な不安はますます大きくなっていきます。
特にミレニアル世代の男性は仕事に対して不安を感じており、65歳以上では身体的な健康に対する不安が高まっています。
これは、ブランドにとってどのような意味を持つのでしょうか?
短期的には、デジタルチャネルはZ世代の男性をサポートする方法となる見込みです。アプリ、オンラインセラピー、テキストなど、デジタルチャネルを通じて提供されるメンタルヘルスとウェルビーイングに関するサポートは、この世代を支援するための鍵になるでしょう。例えば、オンラインカウンセリングとセラピーのプラットフォームである「ベターヘルプ(BetterHelp)」は、若年層の間で人気を博しています。ユーザーは、メンタルヘルスの専門家とマッチングされ、テキスト、ウェブチャット、電話、ビデオ通話で対応することができます。さらに一歩進んで、人工知能によって生成されたセラピストによるサポートを提供するアプリやオンラインプラットフォームも登場しており、今後さらに増えていくことでしょう。
Betterhelpが若年層の間で人気を博す – デジタルプラットフォームにより、ユーザーは専門家に援助や助言を求めることが容易になります。出典:Betterhelp
メンタルヘルスに関する会話はオープンにすることが最も重要
オンラインのメンタルヘルスサポートは短期的な解決策にはなりますが、男性が自分の感情についてオープンに話すことができないという大きな問題には対処しきれません。
ブランドは、オープンな場所にトピックを持ち込むことで、メンタルヘルスを語る敷居を下げることができるでしょう。例えば、「ジムシャーク(Gymshark)」社は2022年7月、1週間行ったキャンペーンの中で、メンタルヘルスのトレーニングを受けた理容師が無料でヘアカットを提供する理容室「ディロード(Deload)」をオープンしました。また、英国の「ニベアメン」は、サッカーチームのキャプテンが「メンタルフィットネス」をチームに取り入れるためのトレーニング合宿「ヘッド・スキルス・アカデミー(Head Skills Academy)」を通じて、支援環境の整備に貢献しています。
ブランドは、ジム、カフェ、職場、バーなど、社会全体に同様のセーフティスペースをつくり、男性のメンタルヘルスへの取り組みをオープンに進めていく必要があります。
ジムシャーク・ディロードの「CALM(Campaign Against Living Miserably)」は、英国での自殺を防ぐためのガイドとアドバイスを提供しています。出典 : ジムシャーク
男性にはニーズに合わせたメンタルヘルスのサポートが必要
メンタルヘルス支援サービスやブランドは、男性にとって最も関心のある問題について、それぞれに合った支援を提供する必要があります。例えば、経済的なプレッシャーの軽減、健全な人間関係の構築、ボディイメージに対するポジティブ思考の促進など、一般的なウェルビーイングのサポートと統合した形で支援することが必要です。ブランドにとって、マインドフルネスアプリの「ヘッドスペース(Headspace)」が「マインドフル・マネー」コンテンツを通じてお金とメンタルヘルスの関連性を取り上げていることは参考になります。このツールキットは、健全なお金の管理をサポートし、それを応援するアドバイスや練習、メディテーションも含まれています。
同様に、このプラットフォームでは、自分の体に対してポジティブな姿勢を奨励するためのメディテーション、気候変動への不安への対処、両親への支援など、具体的なメニューを用意しています。
ブランドは、男性のライフスタイルの悩みをサポートすることで、不安を解消し、積極的にメンタルヘルスをコントロールできるようになるとともに、お客さまとの信頼関係を構築することができます。
Mintelの思い
男性のメンタルヘルスについては、メディアや職場、ブランドなどで取り上げられることが多くなっていますが、問題の深刻さと規模は依然として大きいままです。チャリティ団体やブランドは、男性のウェルビーイングを支援するための実用的なソリューションを提供し、男性が自分のメンタルヘルスについて話す力を得られるようなオープンで安全な環境を社会全体につくり出す手助けをすることが急務となりそうです。★
消費者が「何を」「なぜ」求めているかを探るエキスパート
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