世界的なパンデミックの中、特に女性は、家族の世話や仕事の責任を負いながら、自分自身の健康にも気を配り、手一杯になっています。パンデミックから2年が経過し、ミンテルが36の市場を対象に行った世界消費者調査(※1)によると、女性は男性よりも健康関連の悩みを抱えている傾向があることが分かりました。

※1参照(ミンテルのリポート:英文)
1)US Women’s Wellness Market Report 2022
https://store.mintel.com/report/us-womens-wellness-market-report
2)Understanding LGBTQ+Communities-US-2022
https://store.mintel.com/us/consumer-lifestyles-marketing-promotion/culture-and-identity/understanding-lgbtq-communities-us-2022/

ブランドは、ウェルネス領域において、時代の変化とともに、このような女性消費者をターゲットにする機会を得ていると言えます。不平等に関心を持ち、まだ存在する格差を解消するために活動する女性や少女が増えているのです。マーケターにとって、こうした取り組みを支援することは、大きなチャンスとなります。さらに、世界をより平等にするための製品、サービス、さらには企業ポリシーに対するニーズも高いのです。消費者は自らもリサーチを行うため、オンライン検索やSNSで自社の製品を常にオンラインでアクセス可能にしているブランドは、注目を集め、消費者の検討対象に含まれる可能性が高いということです。 オンラインという自分の判断が大きく関わる手段の中、消費者が製品の機能を理解するための武器を持っていることは、他との差別化を図る上で重要なポイントになります。

女性向けウェルネス・ブランドは、健康問題に対する明確で実行しやすい解決策を提供することで、多くの悩みを軽減することができ、歓迎されるでしょう。さらに、自分自身のケアを大切にしても良いのだと思うことができ、ひいてはそれが他の人のニーズを満たすことができるという点も評価されそうです。

1.ブランドにとって、多様なオーディエンスをターゲットにする大きな機会がある

ブランドは、黒人女性やLGBTQ+の消費者など、多様なオーディエンスをターゲットにする機会があります。

LGBTQ+の消費者は、ウェルネス分野の中核的な消費者グループであり、さまざまな健康問題を報告する傾向が平均より高いことが分かっています。このような消費者にとって、LGBTQ+を支援していることを表現することは重要ですが、ブランドはそれに迎合しないように注意しなければなりません。LGBTQ+を自認する米国の成人の半数(※2)が、自分たちが利用するブランドがLGBTQ+コミュニティをサポートすることは重要だと考えている一方、55%はブランドが単にそうした考えに便乗しようとしているだけなのではないかと考えています。本当の意味での支援とは、単にニーズに応えることから生まれるものです。

妊活中の人々のニーズに応えることに注力しているブランドは、LGBTQ+を自認する消費者に大きなチャンスを与えています。彼らは、平均よりも積極的に妊活に取り組んでいるため、妊娠する可能性も平均の3倍、過去1年でみても実際に妊娠している確率が2倍となっています。LGBTQ+の親あるいはこれから親になろうとする人を歓迎し、マタニティーというものの視野を広げることができるブランドは、現在満たされていないニーズに応えることができると言えます。

ニューヨークを拠点とする非営利団体「ファミリーイクオリティ」は、「コミュニティの構築、心の変化、政策転換を通じて、LGBTQ+の家族とその形成を望む人々のための法的・生活的平等を推進する」ことを使命とし、家族形成の道を歩み始めた人たちへの教育から、生殖技術や養子の費用を補う補助金まで、さまざまなリソースを提供しています。このような団体の活動を支援できるブランドは、ニーズを満たし、認知を拡大し、現在十分なサービスを受けられていない人々の好感を得ることができるのです。し、認知を拡大し、現在十分なサービスを受けられていない人々の好感を得ることができるのです。

出典:Family Equality(Instagram)

黒人の消費者にアピールするためには、ブランドはパーソナライズされた推奨商品を作る必要があります。黒人の回答者の3分の1は、個々の健康ニーズに向けたウェルネス製品を選んでいます。 黒人ユーザーをターゲットとするブランドは、このユーザーに直接語りかけているように見えるよう、製品とそのコミュニケーションを連携させる必要があります。

黒人のインテリアデザイナーであるNicole Crowderは、World Marketと共同で家具コレクションを発表し、黒人女性に安らぎと健康を重視するよう呼びかけました。ソファ、シェーズ、チェア、ベンチ、ストレージオットマン、ダイニングチェアを含むコレクションの各作品には、クラウダー氏がインスピレーションとサポートを受けた女性の名前がつけられています。

出典:Nicole Crowder(Instagram)

2.利便性はプロの推薦を凌ぐ

女性は買い物上手、リサーチ上手で、マルチタスクです。仕事と家庭の両立に加え、個人的な悩みも抱えていることが多いのです。だからこそ、「使いやすい」「手に入れやすい」「分かりやすい」など、物事を簡単にするブランドを最も必要としているのです。

そうした中、プロの推薦は、「購入インフルエンサー(purchase influencers)」の上位層に訴求する近道です。「便利さ」が必須条件ではありますが、ブランドは一般消費者との間にある層である購入インフルエンサーによって差別化を図ることができます。この層には、ナチュラルかつ認知度の高い素材・成分、仲間からのおすすめ、パーソナライズされた製品など、女性や個人の興味やニーズを理解している機能が求められます。

ブランドは、画一的なアプローチがますます意味をなさないものになってきていることに留意なければなりません。「Mintel Trend Driver Identity」の「個性」の章では、消費者が自分自身を表現することに喜びを感じ、ブランドを通して自己表現への欲求を満たしてくれることを期待していることを強く示唆しています。女性のヘルスケアに関する悩みは、薬のアレルギー、糖尿病、性欲の低下、健康維持の課題など、回答者一人一人の具体的かつ個人的な状況を軸にしたもので、同じ回答は二つとありません。パーソナライズド・ヘルスは、大手のブランドやヘルスケア企業が導入することはなかなか難しいかもしれませんが、ターゲットを絞ったメッセージや個人のニーズに応える製品ラインを通じて、可能な限りパーソナライズド・ヘルスに近づけることは、消費者にとって魅力的なことでしょう。

育毛剤ブランド「ニュートラフォル」は、一人一人の髪の状態に合わせて、クイズ形式で最適な製品を選ぶことができるカスタマイズ性を前面に打ち出しています。このように消費者を誘導的に分類することで、ブランドは幅広いラインアップと訴求力を持つことができ、また、消費者が幅広い選択肢の中からどれを選ぶかをナビゲートするメカニズムも組み込まれています。

出典:Nutrafol(Instagram)

3.教育の拡大で、認識、受容、ケアの幅を広げることができる

女性の健康について議論することに対する考えはさまざまですが、一般的に年齢が上がるにつれて抵抗感が減っていくと言います。一般的に、女性は男性とそうした話題を共有することへの抵抗があるのも事実です。女性の健康について会話することへの不快感は、何かがあった際に支援を求める女性の意志にも影響を与える可能性があります。だからこそ、タブーをなくすことで支援の障壁をなくすことができると示唆しています。

出典:Planned Parenthood(Instagram)

生殖医療を専門とする非営利団体「プランド・ペアレントフッド」は、個人が家庭や地域社会、州や国レベルで性教育を啓蒙するためのリソースを提供しています。女性向けブランドは、このような既存の教育活動を支援・後援することで、好感を得ることができるかもしれません。

ミンテルの思い

以上を踏まえ、ミンテルがブランドに改めて提言することは、次の三つです。

①女性の健康は利便性がカギ

女性は買い物に詳しく、流行に敏感で、よく調べることができます。また、仕事、家事、家庭とマルチタスクをこなし、さらに個人的な関心事も抱えています。そのため、使いやすさ、入手のしやすさ、分かりやすさなど、物事を簡単にするブランドが最も必要とされているのです。また、便利さは必須ですが、ブランドは、第2層の購買インフルエンサーを通じて差別化を図ることもできます。それは、天然素材や認知度の高い成分、仲間からの推薦、パーソナライズされた製品など、女性とその個人的な興味やニーズに対する理解です。

②多様な女性オーディエンスをターゲットにする商機がある

マタニティーやウェルネスに対する考え方を、十分なサービスを受けていない消費者にも広げることができるブランドは、現在満たされていないニーズに対応できるチャンスがあります。LGBTQ+当事者でこれから親になる人や黒人女性は、ウェルネス分野や妊活において軽視されてきました。ブランドには、消費者の不満を解消し、実際に需要がある拡大市場に参入する機会があります。

③女性の健康に関する啓蒙を強化する必要性

女性の健康に関連するトピックへのナビゲーターや啓蒙家としての役割を果たすことができるブランドは、共感を得ることができるでしょう。ミンテルの調査に対する回答者の半数が、ライフスタイルが健康管理に果たす役割を指摘していることから、ブランドは、自社製品の販売にとどまらず、健康や健康教育に対する全体的なアプローチを検討する余地がありそうです。 ブランドは、製品がどのようにライフスタイルを補い、充実させ、最高の状態の自分を実現する手助けをしてくれるのか、説明することも必要でしょう。このようなアプローチは、ブランドを単なる売り手ではなく、支援者として見せることができ、売り込まれることを過度に気にしている経験豊富な女性の消費者にとっては特に重要です。

月刊『国際商業』2023年01月号掲載

消費者が「何を」「なぜ」求めているかを探るエキスパート

株式会社ミンテル ジャパン(https://japan.mintel.com
ミンテルは、消費者が「何を」「なぜ」求めているかを探るエキスパートだ。マーケットインテリジェンスのリーディングカンパニーとして、世界と国内の市場に関する独自の視点を提供する消費者/市場/新商品/競合他社の分析を行い、市場の将来的な展望について必要な情報を多角的に提供している。1972年の会社設立以降、長年の蓄積に基づいた独自の視点で、クライアントのより迅速な経営決断を可能にする予測分析と専門家のレコメンデーションを提供。ミンテルの使命は、ビジネスと人々の成長をサポートすることである。

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