花王のマテリアルサイエンス研究所は、独自に開発した界面活性剤「バイオIOS」が、高い界面活性と水に溶けやすい特長を発現するメカニズムを解明した。“サステナブル界面活性剤”には、持続可能な原料を用いることだけでなく、界面活性剤の本質的な価値である高い洗浄性能を持つことが求められる。花王は、サステナブル界面活性剤をさらに広く、有効に活用していくことをめざして、研究を進めている。
今回の研究成果は、英国王立化学会が発行する学術誌RSC Advancesに掲載されたほか、IACIS2022（6月26～30日・オーストラリア・ブリスベン）、第2回世界オレオサイエンス会議WCOS2022（8月23日～9月3日・北海道釧路市）にて発表した。また、一般財団法人油脂工業会館より、令和3年度油脂技術論文最優秀賞を受賞した。
人々の清潔な生活を支えるためには、洗浄剤の主成分である界面活性剤を、将来にわたって使い続けられるよう確保する必要がある。界面活性剤は油になじみやすい親油基（アルキル鎖）と水になじみやすい親水基を併せ持つ分子種だが、現在主に使用されている界面活性剤は、アルキル鎖の炭素鎖長が12～14（C12～C14）で、総植物油脂原料のうちわずか5％の原料から作られており、将来的な供給が課題となっている。
花王は、2019年に長いアルキル鎖（C16～C18）を持ち、その中間部に親水基を有する界面活性剤「バイオIOS」（図1）を開発。バイオIOSは、パーム油の中でも食用と競合しにくい、用途が限られている固体性油脂を原料として活用できる点においてサステナブルといえる。
一方で、界面活性剤は、基本特性である界面活性（水にも油にもなじみやすい）と水溶性（水に溶けやすい）がいずれも高いことが重要である。界面活性が高ければ、少量で汚れを落とせるので、使用量を少なくすることができ、また低温や硬度の高い水中でも溶けやすければ、世界中で使うことができるようになる。
花王は、持続可能な原料を活用できて地球環境にやさしいだけでなく、消費者が使用する上で洗浄性能を犠牲にしない高い界面活性と、世界中のどんな環境でも使える高い水溶性を併せ持つサステナブル界面活性剤が今後ますます求められるようになると考えられる。そこで、サステナブル界面活性剤をさらに広く、有効に活用していくことをめざし、開発したバイオIOSが性能を発揮する本質解明研究に取り組んだ。
一般的に、界面活性剤のアルキル鎖長を長くすると界面活性は高まるものの、水溶性は低下します。逆にアルキル鎖長を短くすると水溶性は向上するものの、界面活性は低下する。このように界面活性と水溶性を高いレベルで両立させることはこれまで難しいと考えられてきた。しかしながらバイオIOSは、長いアルキル鎖の持つ高い界面活性を維持しながらも、高い水溶性を併せ持つ（図2）。
花王はこの理由として、実際の使用環境である“水中”での分子の立体構造が従来の界面活性剤とは異なるのではないかと考え、“水中”でのコンホメーション解析を行った。1H-NMRを用いた解析の結果、バイオIOSの長さの異なる2本のアルキル鎖は水中で同じ方向を向き、またその根元部分は固定された状態であることが明らかとなった。また、FT-IRを用いた解析から、バイオIOSのスルホ基（-SO3-）と水酸基（-OH）との間で分子内水素結合が生じていることがわかり、大きな環状の親水部を形成していることが示唆された（図3）。
長いアルキル鎖を持った一般的な界面活性剤は、アルキル鎖が凝集してしまうために水に溶けにくくなる。一方でバイオIOSは、大きな環状の親水部と、長さの異なるアルキル鎖が同じ方向を向いて固定されることにより、アルキル鎖は親油基として働きつつも、その凝集性が妨げられ、界面活性と水溶性を高いレベルで両立したと推察した。
