3月16日、ファンケルは、「ヒトiPS細胞技術を用いた感覚神経へのアプローチ」と題し、オンラインで研究成果のセミナーを開催した。ファンケルは創業以来、防腐剤や肌ストレス物質を一切入れないことで、女性の肌をトラブルから救い、肌に良い成分だけで美しさを引き出す化粧品の開発に取り組んできた。お客に安心して化粧品を使ってもらうために徹底的な試験を繰り返すのと同時に、肌のストレスとなるものを化粧品に入れないための、ファンケル独自の原料選びの基準を設け、すべての条件をクリアしたものだけを化粧品に配合してきた。「しかしながらこう言った方法を使って検証したにも関わらずそれでもなお化粧品の成分に反応して、わずかなかゆみやむずむずといった不快感を感じることがある。この現象はこれまでの試験方法ではなかなか解明できなかった。そのためにはこれまでにない新しいアプローチの方法が必要だと考えました」(佐藤暢彦総合研究所ビューティサイエンス研究センター皮膚科学第二グループ)。
それを可能にするアプローチとして感覚神経に着目。それを作るためにiPS細胞由来の技術を使ってヒト感覚細胞の再現に成功。その実験の結果からわずかな防腐剤やストレス成分であったとしても、刺激やかゆみといった感覚異常の原因となる神経の伸長と変性を起こしている可能性があることを解明している。
ストレス成分の神経の伸長に及ぼす影響については、ヒトiPS細胞由来感覚神経細胞をメチルパラベンとフェノキシエタノールなどの防腐剤を含む培地で培養実験を行ったところ、感覚神経線維がそれぞれ1.8倍と2.1倍に増えたことが分かった。変性については、皮膚内に浸透した大気汚染物質が、感覚神経の変性を引き起こす可能性を確認した。ヒトiPS細胞由来感覚神経細胞を、皮膚内に到達する可能性のある濃度の大気汚染物質の代表であるベンゾビレンを含む培地で培養したところ、感覚神経線維にビーズ状の変性が2.7倍の頻度で生じることが分かった。このビーズ状の変性は、情報伝達に関与する感覚神経線維がダメージを受け、痛みやかゆみなどの感覚の異常に関連した変化が起きている可能性を示している。
こうしたストレス成分が感覚神経線維に及ぼす直接的影響の解明から一歩踏み込み、今後は間接的な影響にも着目。「防腐剤によって皮膚の奥で活性酸素やサイトカインを発生するということを私たちの研究は明らかにしています。このように神経の周りにある神経以外の細胞、そういったものの影響をこの神経が受ける可能性がある。直接的な影響だけではなくて、2次的、3次的影響まで見ることによって、より正確に予測をすることができるのではないかと考えていまして、私たちは、この技術開発に取り組んでいるところです。そのようにどんどん精度を上げることで、今後、私たちは、より安全、効果的、そしてより快適なスキンケアを実現したいと考えています」(佐藤氏)★
月刊『国際商業』2022年05月号掲載