BtoB、BtoCそれぞれで攻める香りビジネス

--コンステラの一方で、ロート製薬の事業戦略室は、香りのイノベーションを手がける「BÉLAIR LAB(ベレアラボ)」(https://www.belairlab.com)も立ち上げています。こちらのチャレンジは、どのような状況でしょうか。

根羽清ココロ 私たちは、健康寿命への挑戦に挑んでいます。その一つが香りで、近年の研究で生理的、心理的な効果があることが解明され始めています。ベレアラボは、これまで単なる感覚として語られてきた「香り」を人間の感性から科学的に検証し、香りの体験を創るメカニズムを製品開発や生産性向上に活かそうとしています。

--具体的には、どのようなプロジェクトに取り組んでいますか。

根羽清ココロ ベレアラボをスタートしたのは19年5月のことです。空間の香りのエキスパートで「香りの発明家」として知られるフランス人調香師クリストフ・ロダミエルをチーフ調香師として迎え、まずはBtoB事業として立ち上げました。企業のブランディングや用途に合わせた香りの開発、香りの感性価値や機能価値を可視化する科学的検証、香りを用いたサービスや商品の開発など、香りにまつわることをワンストップで提供しています。第1弾は、都市型ドラッグストアのトモズさんと協業し、「トモズの香り」と題して「Modern Trust No.10」をつくりました。お客さまはもちろん、トモズの店員さんからも、お店に入った瞬間に「トモズにきたぞ、と思える」と好評で、いまではトモズさんのプライベートブランドのハンドクリームの香りに採用されるなど、使用シーンが広がっています。もう一つの取り組みは、日本フットボールリーグ(JFL)「いわきFC」所属の選手に公式戦中に香りを活用し、精神的な疲労の軽減や回復が見られるかを検証したんです。

--どういうことですか。

根羽清ココロ プロサッカー選手は、公式戦で勝利するために入念に準備を重ねますが、試合の前日になると、眠れないなどのメンタル的な課題があるそうです。この精神的な疲労をサポートする手段はないかと考え、ベレアラボ独自のノウハウで香りをブレンドし、新緑の透き通るようなさわやかな香りのモジュール「グリーンの香り(Restful Green)」をつくりました。この香りによって、「試合前、試合後の精神的ネガティブ(緊張感・不安感)は軽減される」こと、「試合前の身体的ネガティブ(疲労感)は軽減される」ことを確認したんです(https://www.rohto.co.jp/news/release/2020/0717_01/)。2020年シーズンも、「いわきFC」所属の選手と一緒に別の検証を行いました。その結果は、21年春には発表できると思います。

--香りによって、プロサッカー選手の緊張感、不安感、疲労感が軽減されるなら、コロナ禍の在宅ワークによるストレスにも活用してほしいところです。

根羽清ココロ そういう方に、ぜひ使っていただきたいのが、ベレアラボ初のBtoC事業で、その第1弾商品として発売した空間の香りコレクションです。リビングや寝室、オフィスや車の中など、過ごす空間に「香り」を取り入れることで、感性を刺激し、日々の生活の質を上げようという提案です。13種類の香りを作り、ルームフレグランススプレーと室内芳香油として発売しました。じつは、サッカー選手との実証実験のほかに、三井不動産さんの法人向け多拠点型サテライトオフィス「ワークスタイリング」向けに集中して仕事ができる環境のためのオリジナルの香りづくりも手掛けました。これらの知見を活かして、リモートワークや外出自粛など室内で過ごす時間が増え、場面や気持ちの切り替えがなかなかできない方々に向け、香りが感性を刺激し、一人ひとりの気持ちや活動をサポートできる商品をつくったんです。

--商品特徴を教えてください。

根羽清ココロ 香りの品質やサステイナビリティ、ボトルを触った時の質感やパッケージにこだわり、嗅覚だけでなく、視覚や触覚、そしてストーリーからも使う人の感性に響くように意識した商品づくりをしています。調香師のクリストフ・ロダミエルが厳選した香料原料は貴重でハイグレードなフェアワイルド認証やフォーライフ認証を取得したものが多いのですが、それを高濃度で配合するというチャレンジをしています。こういった原料を多く使うことは、上質な香りを作るためには欠かせない生産者への還元になり、香りのサステイナビリティにつながる取り組みです。日本人の生活文化や感性に響く、自然とのつながりを大切にしたフレッシュな香りをふんだんに取り入れ、室内にいながらも外の緑との繋がりを感じさせてくれるグリーンの香り「RELIEVING GREEN(リリーヴィング グリーン)」、サステイナブル香料である生のジンジャーを使ったフレッシュで華やかな気持ちになれる「PURIFYING GINGER(ピュリファイイング ジンジャー)」、繊細なタッチの絵画を眺めているような優しい気分になれる、ホワイトティーとピオニーを組み合わせた「SMILING TEAONY(スマイリング ティオニー)」など、13種類の香りをラインアップしています。20年12月1日にルームフレグランスミニスプレー5本セットの「ディスカバリーセット」を、ルームフレグランススプレーと室内芳香油の単品を21年1月18日に発売。いずれもAmazonで購入できます。

ベレアラボ初のBtoC事業として、ルームフレグランススプレーと室内芳香油をAmazonで販売開始

ベレアラボ初のBtoC事業として、ルームフレグランススプレーと室内芳香油をAmazonで販売開始

--売れ行きはいかがでしょうか。

根羽清ココロ BtoC事業は始まったばかりですから、まずは認知拡大に努めているところです。ただ、東京表参道で12月18日、19日に行った、香りをアートに見立てた展示会「香りのアート展 Emotions in Tokyo produced by BÉLAIRLAB」は、とても好評でした。このような取り組みを続けることで、ベレアラボが創造する香りのファンを増やしていきたいです。

--一方、20年7月発売のD2Cスキンケアブランド「SKIO」(https://www.skio-net.com)は、化粧水が不要のシンプルステップで話題になりました。

根羽清ココロ 自分にとって必要なモノを見極めたい、シンプルなアイテムだけを選んで使用したい、という特に、30歳前後のミレニアル世代が持つスキンケアニーズに応えるブランドです。コンセプトは「無理なく、無駄なく、美しく」で、「必要な成分を必要な場所に届ける」というディープターゲットデリバリーシステムを採用しています。このディープターゲットデリバリーシステムはロート製薬が特許を取っている技術です。具体的には、洗顔後の導入美容液で、化粧水の役割も兼ね備えている「SKIO VC ホワイトピールセラム」(美白美容液)を用いることで、洗顔後に化粧水を使用せず、効率的なステップでスキンケアが行えます。また、セラムに使用する容器瓶は、75%リサイクルされたガラス瓶を採用したほか、包装材は緩衝材を兼ねるバブルパックを採用することで、捨てる時の実用性も大切にしています。

D2Cスキンケアブランド「SKIO」

D2Cスキンケアブランド「SKIO」

--「SKIO」には、スキンケアの定番アイテム「化粧水」がありません。それでもお客が反応する理由は何でしょうか。

根羽清ココロ ポイントの一つは、「無理なく、無駄なく、美しく」というコンセプトに深く共感するお客様が多くいらっしゃることです。効果と効率を両立したいと考えるお客様に、きちんとしたサイエンスをベースに化粧水がなくても肌に効果を与えられる技術をお伝えすることで、安心して使ってくださっています。実際に、洗顔後、肌に最初に与えるものが「効く」ものだと安心する!化粧水を使わないケアが効率的で手放せないという声もいただいています。

--日本発の新しいスキンケアブランドとして、グローバル市場に打って出るのでしょうか。

根羽清ココロ もちろん、将来的には、世界中で「SKIO」のファンを増やしていきたいのですが、まずは日本において「SKIOのある生活」、つまり、新しいスキンケア習慣を定着させたいと思っています。それまでは、お客さまの声をダイレクトに集められるD2Cブランドの強みを活かして、試行錯誤を続けたいと思います。

--ロート製薬は新しい試みが雨後の筍のように生まれます。その理由は何でしょうか。

根羽清ココロ 私たちは30年の経営ビジョンとして「Connect for Well-being」の実現を掲げています。ウェルビーイングとは、人々が心身ともに健康で、社会的にも健康な状態のことで、幸せを感じながら毎日の生活を送ることができる状態ともいえます。ロート製薬は、世界中の人々ができるだけ長い時間、ウェルビーイングを感じることができるように、健康長寿社会の実現に貢献していこうと考えていますが、その方法は無限に存在しています。正解がないからこそ、いろいろな形で挑戦していきたいと思って、全社を挙げてチャレンジを続けているんです。

--社員一人一人の挑戦心に火をつけることは容易ではありません。

根羽清ココロ もちろん、その通りですが、ロート製薬は、その点でも工夫しているんです。その一つは、20年4月に立ち上げた社内ベンチャー支援プロジェクト「明日ニハ」です。社員対象のプロジェクトですが、会長・社長の審査を通過した事業アイデアを全社員に向けて提案され、社内通貨を通じたクラウドファンディングを通じて新規事業として挑戦できます。この仕組みは、有志で生まれたものなんです。ロート製薬では副業が解禁されており、ある社員が副業で得た知識と経験を社内に還元するにはどうすればいいのかと考え、より良いアイデアが社内から生まれる環境をつくりたい、と同僚と話したことがきっかけです。複数の社員が意気投合して、会長と社長に提案して「明日ニハ」の誕生に結びつきました。

社内ベンチャー支援プロジェクト「明日ニハ」では、研究開発部門の女性社員は、食育をテーマにした新サービスを企画

「明日ニハ」では、研究開発部門の女性社員は、食育をテーマにした新サービスを企画

--「明日ニハ」の活用は進んでいますか。

根羽清ココロ 第1期の社内応募には、入社2年目から部長クラスまで申し込みがあり、現在、四つの提案が事業化に向けて走っているところです。詳しくは申し上げられませんが、一つは、研究開発部門の女性社員が食育をテーマにした新サービスを企画しています。第2期も準備中です。とはいえ、「明日ニハ」について様子見の社員もいますから、これからも継続させるには、もっと創意工夫が必要だと思います。この点もロート製薬らしいところで、多くのプロジェクトがまずはトライして修正を重ねていく風土なんです。余白を持たせながら、社会や生活者の変化に合わせて、ロート製薬自体が変化していく。この社風が「明日ニハ」にも現れており、次の新規事業が生まれてくと思います。その時は、私がご紹介します。

(取材協力:ロート製薬)