美容室向けヘアケア・化粧品メーカーのミルボンは、ブリーチ後に洗髪や乾燥を繰り返してまとまりが悪くなった毛髪の内部構造をミクロレベルで解析した。その結果、毛髪内部のミクロフィブリル(毛髪のミクロ構造を形作る組織の一つ)の配向性が乱れていることを新たに発見した。同研究成果について、2025年繊維学会秋季研究発表会にて「延伸による脱色処理毛髪の変形に伴う毛髪内微細構造の変化」のタイトルで発表した。

近年、ブリーチを伴うヘアカラーデザインが一般化する一方で、ブリーチ後の毛髪は日常生活の中でまとまりにくくなることが経験的に知られている(図1A)。ミルボンではこの変化に着目し、洗髪後の乾燥工程で毛髪に負荷がかかるとうねりが発生し(図1B)、内部のミクロ構造であるマトリックス(毛髪のミクロ構造を形作る組織の一つ)が圧縮されることを明らかにしてきた。また、乾燥中の負荷を軽減することでこの現象を抑制できることも確認し(図1B)、ヘアケア製品の開発に応用している。しかし、洗髪と乾燥を繰り返すことで、まとまりが一層損なわれる場合もあり(図1C)、そのような毛髪では内部構造にさらなる変化が生じている可能性が考えられる。こうした背景に加え、見た目の美しさを求めるニーズの高まりを踏まえ、同研究では“ブリーチ後に洗髪と乾燥を繰り返し、まとまりが悪くなった毛髪”の内部構造を解析した。

ブリーチ後に洗髪と乾燥を繰り返してまとまらなくなった毛髪について、⼤型放射光施設 SPring-8*1にて、⼩⾓X線散乱法(SAXS)*2を用いて毛髪内部構造(図2)の解析を行った。その結果、過去に確認されたマトリックスの圧縮(図3A)に加え、今回新たに、毛髪構造の柱となるミクロフィブリルの配向性が乱れていることを確認した(図3B)。

今後は毛髪内部構造の変化が進行し、これまでのケアだけでは整えられないほどまとまりが悪化した毛髪を効果的に補修し、まとまりよく整える新たなヘアケア技術の確立を目指す。

*1兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出すことができる理化学研究所の施設。SPring-8の名前は Super Photon ring-8 GeV(80億電子ボルト)に由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁⽯によって進行方向を曲げたときに発生する強⼒な電磁波のこと。SPring-8 では、この放射光を用いてナノテクノロジー・バイオテクノロジー・産業利用まで幅広い研究が行われている。

*2物体に照射したX線はその物体内で様々な方向に散乱する。このうち散乱⾓が⼩さいX線を測定することにより、数ナノメートル数⼗ナノメートルの構造情報を得る⼿法が⼩⾓X線散乱法である。