コーセーは、米国シンシナティ大学皮膚科ZalfaA.Abdel-Malek教授との共同研究により、真皮の細胞老化が線維芽細胞(真皮でコラーゲンなどをつくり、肌を支える細胞)から分泌されるタンパク質「sFRP1」を減少させ、過剰なメラニン産生を引き起こすという、新たなシミ形成メカニズムを解明した。これは「sFRP1」が真皮における抗シミ因子であるという発見であり、真皮からのシミへのアプローチという応用が期待できる。また、グリーンルイボスエキスに「sFRP1」の分泌を増やす効果があることを確認した。同研究成果の一部は、2025年9月15~18日にフランス・カンヌで開催の第35回IFSCC学術大会にて発表した。

肌に現れるシミや色むらは、多くの人が抱える代表的な肌悩みのひとつだ。主な原因は紫外線ダメージと加齢であり、それらが表皮における分泌物の変化を引き起こすことで過剰なメラニン生成につながると考えられてきた。そのため、これまでは美白化粧品やシミレーザー治療による「表皮を標的としたアプローチ」が主流だった。しかし実際には、ケアを続けてもシミが同じ場所で大きく・濃くなったり、レーザーで一時的にシミを消しても同じ場所に再発するなど、結局シミがなくならないという課題があった。そこで同研究では、メラニンが蓄積する表皮だけでなく、さらにその奥にある真皮にシミを制御する機能が存在しているのではないかと考え、真皮が関わる新たなシミ発生メカニズムの解明に取り組んだ。

はじめに、シミの発生に真皮がどのように関わっているかを明らかにするため、シミ部位とその周囲の健常皮膚から真皮を採取し、1万8812個におよぶ遺伝子の発現量(遺伝子が働いている量)を網羅的に解析した。その結果、「sFRP1(Secreted Frizzled-Related Protein1)」という、メラノサイトの機能を制御するタンパク質がシミ部位の真皮で顕著に減少していることを発見した(図3)。さらに、「sFRP1」は真皮の線維芽細胞から分泌されることが確認でき、その量は細胞の老化によって減少することを明らかにした(図4)。

シミ部位における「sFRP1」の遺伝子発現量と、細胞老化後の「sFRP1」の遺伝子発現量

次に、シミ部位の真皮で減少していた「sFRP1」が実際にシミ形成へどのように関与するのかを明らかにするため、メラノサイトや3次元皮膚モデルを用いた機能解析を行った。まず、メラノサイトにsFRP1を添加することで、メラノサイトの活性化状態の指標である、樹状突起の形成が抑制されることを確認した(図5)。

「sFRP1」のメラノサイトの活性化への影響

さらに、3次元皮膚モデルに「sFRP1」を添加すると、表皮内のメラニン量の減少とメラノサイトの活性化抑制が観察され、色素沈着が抑制されることが確認できた(図2)。これらの結果から、「sFRP1」はメラノサイトの過剰な活性化を抑え、皮膚の色素沈着を防ぐ、真皮における「抗シミ因子」であることが実証された(図1)。

「sFRP1」による真皮からのシミ発生メカニズム

「sFRP1」 が皮膚モデルの色素沈着に与える影響

さらに、真皮の線維芽細胞において「sFRP1」の産生を高める成分の探索を行った。数ある植物エキスのうち、南アフリカ原産のハーブであるルイボスの未発酵の全草から得られるグリーンルイボスエキスに着目した。グリーンルイボスは通常の発酵ルイボスに比べてポリフェノールを豊富に含むため、抗酸化作用や抗炎症作用による美肌効果が期待され、飲用としても親しまれている。グリーンルイボスエキスを線維芽細胞に添加した結果、sFRP1の発現が有意に上昇することを確認した(図6)。

グリーンルイボスエキスによる「sFRP1」促進効果

これまでのシミ研究では表皮ばかりが注目されてきたが、同研究により、新たに真皮における抗シミ因子「sFRP1」を発見することができた。この知見は、しつこいシミに対する新しいアプローチにつながる可能性があり、今後のスキンケア商品に応用していく。同社は今後も、肌悩みのメカニズム解明や有用な成分の開発を継続し、お客のニーズに根拠をもって応えることのできる化粧品の提供につなげていく。