資生堂は、独自の「肌内外3D弾性イメージング技術(本多電子、豊橋技術科学大学との共同研究により開発した皮ふ内からの超音波反射信号を弾性率に変換する特許取得技術)」を応用して、真皮上部に位置する乳頭層を「繊細なやわらかさを持った状態」に保つことがシワの予防に寄与することを明らかにし、レチノールにその機能があることを発見した。
シワは、紫外線などの外的な要因だけでなく、表情を作るときに肌内で生まれるメカニカルストレス(表情が作られるときに皮ふ内で発生するひずみによって細胞が受けるストレス)も原因となって作られる。メカニカルストレスが真皮へ伝わるとコラーゲンは分解され、深いシワの発生につながっていく。同社は、やわらかい乳頭層にはメカニカルストレスを吸収し、真皮に伝わることを防ぐ機能があることを明らかにした(豊田工業大学との共同研究)。
また、やわらかい乳頭層ではⅠ型、Ⅲ型、Ⅴ型のコラーゲンが豊富に保たれ、それぞれが相互に結びついて繊細な線維を形成していることに着目し、これら3種のコラーゲンすべての産生を促す薬剤を探索した。その結果、レチノールにその効果を確認した(図1)。3種のコラーゲンは加齢で減ってしまうが、レチノールを適用することで未来のシワ予防につながる可能性が示唆された。
今回の研究成果は、既に定着したシワ改善にとどまらず、未来のシワ予防をも可能とする新たなスキンケアのアプローチにつながる知見だ。資生堂は今回の知見を、安心・安全かつ高性能なアンチエイジングスキンケアの開発設計に活用していく考えだ。
皮ふは、角層、表皮、真皮の多層構造をなしているが、その構造の詳細は目で見ることができない。「見えないものを見える化」することを強みとする同社は、見えない肌の内部を可視化することで、肌が内に秘めた機能を明らかにし、生活者への新たな美容の提案につなげたいと考え研究を進めている。「肌内外3D弾性イメージング技術」は目に見えない“肌内部の強度(皮ふの弾性〈圧縮した際の反発力〉)“を高解像度の超音波技術を用いて可視化する高度な技術だ。同社はこれまで同技術により、“肌内部の強度”は層ごとに異なることを見いだし研究を重ねてきた。今回は、乳頭層と網状層で“肌内部の強度”が異なる真皮に着目し、特長的なコラーゲン構造を持つ乳頭層の“強度”にはどのような意味があるのかを明らかにするため、研究を深めた(図2)。
シワのない肌の真皮乳頭層が絹のような繊細なやわらかさを持つ理由を明らかにするため、シワ形成の原因の一つであるメカニカルストレス(ひずみの大きさ)の解析を行った。やわらかい乳頭層がある皮ふモデルと、やわらかい乳頭層がない皮ふモデルをコンピューター上で作成し、それぞれを収縮させたときに発生するメカニカルストレスを解析。前者では乳頭層がメカニカルストレスを吸収し、真皮にストレスがほとんど及ばないのに対し、後者では大きなストレスが真皮に及ぶことが分かった。つまりやわらかい乳頭層がメカニカルストレスを吸収することで真皮を守り、シワのない肌状態を維持していると考えられる(図3)。
次に、やわらかい乳頭層を維持する方法を検討するために、層に存在する3種のコラーゲンを観察すると、肌では乳頭層のみに存在する希少なV型コラーゲンは、I型、Ⅲ型コラーゲンとともに線維を組み立てる役割を果たし、3種のコラーゲンが互いに影響し合いながら一体化して、細く整った線維となっていることが分かった(図4)。
3種のコラーゲンで形成されたやわらかい乳頭層がシワ原因の一つであるメカニカルストレスを吸収し、シワを予防していることが分かったが、残念ながら、やわらかい乳頭層は加齢で失われていくことが明らかになった(図5)。そこで3種のコラーゲンの産生を高める成分を探索した結果、レチノールにその効果を確認した(図6)。今回の知見により、レチノールがシワの予防に寄与する可能性が示唆された。