奥ゆかしさは日本の美徳。それだからか、アピール下手と感じる場面が少なくない。ある海外ファンドと一献傾けているとき、急に、大手化粧品メーカーが美容部員を抱えるのは価値がない、と問題提起してきた。会社の垣根を越えて一緒くたにし、人材派遣会社みたいにすればいいじゃないか、という極端な持論だった。日本の化粧品EC化率、リアルとセットでのLTVの長さなどを説くと、自然と話題はOMOの課題に移ったが、傍目にはそう映るのだから貴重な意見である。化粧品専門店の会合では、顧客づくりが生命線なのに美容部員の派遣基準を厳しくするなんて! とメーカー批判が少なくない。それに一理あることは重々承知しているが、それなら自店のリピート率を尋ねると言葉に詰まる経営者が多いのはなぜか。美容部員を派遣するメリットを明瞭にすれば、競合店との差別化になる。メーカーも専門店も美容部員やスタッフの接客が生む価値を、誰にでも分かる言葉で発信していない。だから、さまざまな場面でボタンの掛け違いが生まれる。韓国政府の支援があるからK-Beautyは世界を席巻しているというが、その一方で化粧品輸出入に関わる国内検査機関は「韓国ブランドとの取引は短命」と苦笑いする。実態は支援しても企業は育たずではないのか。韓国並みの支援を――と日本政府や役所に迫る声は多いが、そもそも韓国支援策の費用対効果を検証したデータは寡聞にして知らない。エビデンス不足のアピールで税金が原資の支援を受けると、いわれのない疑いをかけられるリスクを背負うことになるから、ことは慎重に運ぶべきだ。わが家の事件簿は、ドラッグストアで買ったゼリーを食べた6歳児と2歳児が「美味しくない」と口をそろえたこと。その数日前、頂き物のフルーツゼリーを食べて舌が肥えていたのがまずかった。しかし、たった一言で心に眠る背景まで鮮明に伝えるアピール力は見習いたい。幸い、小誌は豊富な情報ネットワークを持つ。化粧品業界の活性化につながるアイデアや熱意は代弁し続けようと思う。

月刊『国際商業』2025年07月号掲載