「僕らはウクライナに救われた」。こう語るのは、中国で育った20代後半の日本人エリート。多彩な言語を操り、グローバル市場を舞台に活躍しているが、もし中国がロシアのウクライナ侵攻に乗じて台湾を攻めていたら、日本人であるがゆえに中国での地位や資産を失っていたという。それが現実にならなかったのは、ウクライナ人の勇気ある反攻で戦闘が長期化したから。彼は「平和が訪れたらウクライナを旅して感謝を伝えたい」と力なく笑った。一方、中国経済は厳しく、北京の超一流大学では6月中旬時点の内定率が前年の5割を下回ったという。理系はいくぶんましなようだが、他の大学はもちろん、高等教育に縁のない庶民はもっと苦しい状況ではないのか。だからこそ、自由な経済活動よりも共産党が示す社会秩序を重んじる習政権への不満が募る。上海ロックダウンで見せた当局の希薄な人権意識は、若い世代を移民へと駆り立て、流行語も生まれた。それを受け当局は移民に必要な書類の発行をストップしたという噂も飛び交う。前述の彼は、遠くを見ながら「できれば、習近平に続投してもらいたくない」と言った。中国の若者、特に25歳以下は、文字通りの氷河期世代になりそうだ。人口減の市場縮小が避けられない日本経済は、海外需要の取り込みが必須。中国需要に頼ってきた化粧品業界はなおさらである。では、めぼしいポストチャイナはどこか。その羅針盤がないのも事実である。
月刊『国際商業』2022年08月号掲載