高級な家畜みたいな気分――。ある小売業幹部がユニークな表現で、海外出張のあり方に疑問符を付けた。その企業の幹部は取引先から本社に招かれることが多く、海外企業から声がかかることも少なくない。指定の飛行機に乗り、現地空港に着くと、あらかじめ用意された社用車に乗る。本社や工場などを見学した後、夕食をともにし、ホテルで降ろされる。翌朝はロビーで待ち合わせし、またその企業が見せたい場所を巡り、飛行機に乗って帰路に就く。すべての行程が管理され、自由は皆無。見せたいものだけを見せられ、見たいものは見られない。特に小売業であれば、現地の生活者や売り場づくり、商品構成を見たい。その鬱憤が冒頭の言葉に表れている。しかし、このユニークな表現を聞いた人たちは、誰もが納得の表情。いずれも業種は違うが、企業の幹部ばかり。やはり現場視点の欠如に危機感が強いのだろう。それが社員まで波及すると、国内外の戦略は落とし穴にはまりかねない。編集記者は読者の代表でもある。彼らの目となり耳となり、有益な情報をつかみ、記事で表現できるか。編集会議で議題にしたいと思う。

月刊『国際商業』2025年03月号掲載