「サイハン」と聞けば、再販売価格維持制度が真っ先に思い浮かぶ。化粧品業界の大きな転換点だったからだ。しかし、ロート製薬内で「サイハン」と言えば、返品の再販売のこと。返品=廃棄の常識を覆し、再販売するスキームを作り上げた。その過程には興味深い物語があり、社内外の思い込みを変える努力に心を打たれた。それと同時に「サイハン」の意味が変わったことを意識させられた。ESG対応が再販撤廃と同じような大きな転機なのだ、と改めて深い学びを得た。常識を疑う姿勢は、リアル売り場の進化を取り上げた特集の取材でも随所に感じられた。路面店は凋落の一途。これは先入観で「商機は十分にある。大事なのは原点回帰。路面店らしい価値を届けることを忘れてはいけない」とコロナ禍の最中に路面店をオープンした川島康嗣氏はまっすぐな眼差しで話した。帰り際、店舗がある商店街を歩いていると、女子高生や主婦、シニア女性、仕事帰りの女性など、人通りが多いことに驚いた。周囲には高級住宅街が広がり、ファミリー向けマンションも増え、三ノ宮の近隣に穴場の商圏が残っていた。常識を“上手に”疑う。先の見えない時代に求められるスキルである。

月刊『国際商業』2022年05月号掲載