マンダムは、「汗」や「におい」は身体面だけではなく、精神面や周囲にも大きな影響を及ぼすことからQOLに関わる“社会的な問題”と捉え、体臭の研究は2006年から、汗腺の研究は10年から力を注いできた。23年には大阪大学との共同研究によりGMA(グリチルリチン酸モノアンモニウム、23年に見出された新たな制汗成分。汗腺の筋上皮細胞の収縮の抑制〈「汗腺を一時的に眠らせる」と表現〉により、発汗量を4〜6割に抑える作用をもつ。暑さによる温熱性発汗のみならず、緊張やストレスによる精神性発汗の抑制にも効果があるとされている)がヒトの温熱性発汗や精神性発汗を抑制すること、つまり「GMAが汗を眠らせること」を世界で初めて発見した。
今回、杏林大学名誉教授 古賀良彦氏の監修のもと、汗対策がヒトの生産性やパフォーマンスに与える影響を心理生理学的に検証する実験を行った。その結果、“汗を眠らせる成分”GMAを含むサンプルによって発汗量が減少し、またその作用機序説明による安心感が伴うことでプレゼンテーションや計算などのストレスがかかる知的作業を行った際に、心理的なストレスを軽減するばかりでなく、脳の前頭葉の活性化が促されパフォーマンス向上が得られるという可能性が示唆された。
実験概要と評価方法は以下の通り。
■実験概要
・実験施行日:25年3月22・23日
・被験者:23~43歳の男性9名
・被験者条件:精神的負荷により多量に発汗するという自覚がある(多汗症の既往のある者・治療中の者は除く)/心肺機能の障害がない/右手利き/非喫煙者/鼻炎の症状がない/服用している常用薬がない/薬品などのアレルギーを有しない
・実験条件:被験者はスーツ着用、エアコン設定温度30℃の環境下で実施
・実験監修者:古賀良彦 杏林大学名誉教授 医学博士
■評価方法
1)測定方法
①心理検査
・アンケート(VAS:visual analogue scale):主観的評価を100ミリメートルの線分上に表記。評価の項目数は15。

図1:VASアンケ―トの例
②脳機能測定
情報処理の機能を担う前頭葉の活動状態を測るため、近赤外線スペクトロスコピー(NIRS:スペクトラテック社製)により、課題遂行時の前頭部16部位の脳血流変化量(酸素化ヘモグロビン変化量、前頭葉は情報処理の基本となる注意や記憶、さらに判断や行動の制御などの高度の機能を担っている。脳血流変化量を測定することで、活動の状態を詳細に可視化できる。脳血流変化量が増加すれば、その部位の機能が活性化したことを示す)を測定。

図2:前頭部16部位のセンサー位置
③発汗量の測定
セッション施行前後の被験者のTシャツの重量を測定し、その差を発汗量とした。
その際、Tシャツの汗染みを撮影し、目視による定性的評価も行った。
2)実施課題
①プレゼンテーション課題
被験者自身の仕事と最近の関心事について、それぞれ90秒間のプレゼンテーションを実施。
②計算課題(内田クレペリン検査〈変法〉:以下、クレペリン検査〈変法〉)
1~9までの1桁のランダムな数字を羅列しておき、隣り合う数字の合計の下1桁を順に記載し続けるテスト。
原法とは異なり、5分間のみ施行。
3)サンプルの塗布方法
Tシャツ着用直前に、ロールオンタイプの容器に入れたサンプルを、両腋窩部に10往復にわたり塗布。
4)実験遂行の流れ
発汗抑制の機序を説明した上でGMAを含む制汗サンプルを塗布した状態(以下、GMAサンプル有)と、何も塗らない状態(GMAサンプル無)の2条件で、それぞれの被験者につき以下の1〜9の手順で測定およびアンケートを実施。
1.着用前のTシャツの重量を測定
2.Tシャツ、Yシャツ、ネクタイ、スーツジャケットを着用
3.脳血流測定センサーを装着
4.VASアンケートを実施
5.指示された課題についてプレゼンテーションを施行させ、その間の脳血流変化量を測定
6.VASアンケートを実施
7.クレペリン検査(変法)を施行させ、その間の脳血流変化量を測定
8.VASアンケートを実施
9.着用したTシャツの重量を測定
なお、GMAサンプル塗布はTシャツ着用直前に行った。
実験の結果、三つのことが分かった。
1.汗の抑制とその安心感(GMAを含む制汗サンプルによる汗の抑制の作用機序説明による安心感)が、緊張状態における脳のパフォーマンスを高める可能性があると判明
以下の図4および図6は、プレゼンテーション課題と注意集中力を測定するクレペリン検査(変法)を遂行している際の両サンプルの脳血流変化量を示したものだ。暖色系の色が濃いほど血流量が増加していることを表す。
プレゼンテーション課題およびクレペリン検査(変法)のいずれにおいても、GMAサンプル塗布時は、非塗布時と比較して、前頭葉の血流変化量がより増加した。前頭葉は、記憶、注意、判断、行動の制御など、高度の認知機能をつかさどる重要な部位だ。今回、観察されたGMAサンプル塗布時に認められた前頭葉血流変化量の増加は、プレゼンテーション課題遂行のような知的な機能がGMAサンプルによる発汗の抑制で活性化されたことを示唆している。また、計算課題の遂行には注意集中が求められるが、GMAサンプルによる発汗の抑制はその能力を向上させる可能性があると考えられる。

図3:プレゼンテーション課題遂行時の脳血流変化量の平均値の比較

図4:プレゼンテーション課題遂行時の脳血流変化量の平均値の画像の比較

図5:クレペリン検査(変法)遂行時の脳血流変化量の平均値の比較

図6:クレペリン検査遂行時の脳血流変化量の平均値の画像の比較
2.汗の抑制とその安心感で、計算課題の達成数が平均40問向上
クレペリン検査(変法)の結果、GMAサンプル塗布時は、非塗布時と比較し、達成数は平均40問向上(15%増加)し、正答率は0.3%向上した。GMAサンプルによる発汗の抑制は、計算力を向上させることを示す結果が得られた。

図7:クレペリン検査(変法)の達成数

図8:クレペリン検査(変法)の正答率
3.汗の抑制とその安心感は、ポジティブな心理状態とストレス軽減をかなえる結果に
GMAサンプル塗布時は、非塗布時と比較して、プレゼンテーションの場合もクレペリン検査(変法)の場合も、快適度、リラックス度、スッキリ度、元気度、やる気度など、ほとんどの項目においてより高い評価が得られた。
とくに、プレゼンテーションの場合はすべての項目でGMAサンプル塗布時が高い評価になっていた。このことから、GMAサンプルによる発汗の抑制は、ストレスの軽減に貢献する可能性が示唆された。

図9:プレゼンテーション課題遂行後のVASの各評価項目の平均値の比較

図10:クレペリン検査(変法)遂行後のVASの各評価項目の平均値の比較
またGMAの発汗量抑制については、23年の研究発表で証明されたとおり、GMAサンプル使用時と、非塗布時におけるTシャツの重量変化および汗染みを比較した結果、非塗布時の平均発汗量は約4.2グラムであったのに対し、GMAサンプル塗布時の平均発汗量は約1.9グラムであり、GMAサンプルの発汗抑制効果が認められた。

図11:Tシャツ重量変化(発汗量)の平均値の比較

図12:Tシャツの汗染みの比較(23歳男性)
■古賀良彦名誉教授コメント
「今回の実験は、GMAサンプルの制汗効果を精神生理学的に検証したものです。結果として、GMAサンプルは心理的なストレスを軽減するばかりでなく、前頭葉機能を賦活(機能・作用を活発化すること)し、パフォーマンスの向上をもたらすという知見が得られました。
少数例を対象とした測定という条件は付さねばなりませんが、用いたGMAサンプルは制汗作用を通して、認知から行動に至る情報処理のプロセスにポジティブな効果をもたらす可能性があることを示唆する結果と言えるでしょう。
今後、研究をさらに発展させることにより、日常の生活の中でGMAサンプルが幅広く用いられ学習の効率化や仕事の生産性の向上に貢献できるようになることを期待しています」

古賀良彦名誉教授
近年の猛暑に加え、コロナ禍以降の対面機会の増加により汗対策が必要となる場面は増えてきている。特に、面接や商談などの大事な場面において、スーツ着用などによる暑さや、慣れない環境下での緊張から、多く汗をかいてしまった経験を持つ人も多いのではないか、また、そうした汗をかいている状態に対する焦りや不快感から自分の思う通りに実力を発揮できなかった人も多いのではないか、と同社は考える。
今回の実験を通して、面接やプレゼンテーションのような緊張を伴う場面や、高い集中力が求められる作業において、制汗剤などを用いた汗対策を講じることは、パフォーマンスの向上に寄与する可能性が示唆された。GMAでの汗対策は、物理的に発汗を抑制する効果の実感に加え、「しっかりと対策ができている」という安心感をもたらし、それが自信の醸成や潜在能力の発揮に影響を与えていると考えられる。
今後マンダムでは、汗腺を眠らせることで汗を抑える新たな制汗成分GMAと従来の制汗成分を掛け合わせる新たな制汗技術の発見や研究成果を生かし、汗悩みの解決に注力する。また、状況に応じて適切に汗をコントロールする「汗マネジメント」を研究知見や商品情報を通じて提唱し、汗と上手に向き合うことで、誰もが快適な日常を送ることができる社会を目指すとしている。