ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業は、大阪・関西万博の会場内に、化粧品容器由来の再生プラスチックを用いたベンチを設置し、品質に関する実証試験を実施する(図1、2)。

図1.再生プラスチック配合ベンチの外観

図2.設置場所の外観

化粧品容器が多様なプロダクトに生まれ変わる未来を想定し、来場者に触れて使用してもらうことで、化粧品由来の再生プラスチックを日用品に転用する際の知見を収集する計画だ。


■基本情報

設置場所:万博会場『島の蜃気楼』(トイレ施設)周辺
設置台数:2台
デザイン:2種(1.SKIN 2.EMULSION)
素材:PET(スキンケア化粧品容器由来)、ポリカーボネート(バージン)、木(間伐材由来)
製作連携:

・オルビス(化粧品容器の提供)

・”甲州市・オルビスの森”運営パートナー団体 公益財団法人オイスカ(間伐材の提供)

・VOID(ベンチデザイン・3Dプリント製造)

会期中、来場者は自由にベンチを利用することが可能。


ポーラ・オルビスグループは1985年からいち早くリフィル容器や詰め替え用化粧品の販売などに取り組み、その後も化粧品容器の軽量化、非石油由来の代替素材の導入など、循環型社会の実現に向けた研究開発の取り組みを進めている。2023年には、再生プラスチックの加工技術の探求と、生み出せるアート表現の可能性を検証する狙いから、多くの芸術家とコラボレーションし、「Plastic Revives展」を開催した。

25年は新たな取り組みとして、化粧品由来の再生プラスチックが使われているベンチを大阪・関西万博の会場に設置し、実証試験を行う。試験では、化粧品容器由来の再生プラスチックを日常使いのプロダクトにリサイクルする際の幅広い知見の収集を目指す。具体的には、屋外環境に長期間設置し、多くの方に繰り返し使用される大阪・関西万博の会場特性を生かしながら、品質の変化(実利用、紫外線、熱、降雨の影響など)を調査する予定だ。

今回製作したベンチデザインは2種類ある。3Dプリンティング成形技術を得意とするVOIDと連携することで、再生プラスチックの配合度合いにより色味がどう変化するかなどの検証を行いながら、視覚的・触覚的な表現も追求した。デザインの着想は、ポーラ・オルビスグループ独自の化粧品クリームや、研究対象としている”肌”だ。心地よい感触の秘密である乳化物の形態や、皮膚表面の肌理(キメ)構造をベンチの表面デザインに模し、「触ってみたい」と感じるベンチを目指し作り上げた。ベンチに座るだけでなく、手触りを楽しみ、肌についてふと考えるきっかけになればという思いが込められている。

ポーラ化成工業は今回の取り組みを通じ、再生プラスチックを活用して人々の感性に訴えかけるマテリアルリサイクルを実現するための知見を集め、今後の研究・事業開発に活用していく考えだ。

大阪・関西万博では、SDGs(持続可能な開発目標)達成につながる個性豊かで魅力的な博覧会施設の創出を目指し、今後の活躍が期待される若手建築家が休憩所やトイレなど計20施設の設計を担当している。その一つである、再利用可能な樹脂で製作され、半透明な曲線が特徴的な『島の蜃気楼』(トイレ施設)(図2、3)の周辺に、再生プラスチックを配合したベンチが設置されている。

図3.再生プラスチック配合ベンチの設置場所 会場南端のシグネチャーゾーンに位置する『島の蜃気楼』(トイレ施設)の周辺に設置(図:大阪・関西万博公式MAPより一部引用加筆)

ベンチはポーラ化成工業が積み上げてきた化粧品科学を着想の起点として、意匠性にもこだわった2種類のデザインを製作した。

■デザイン1.SKIN

肌理(キメ)とは皮膚の表面に見られる細かい三角形の構造のこと。肌理は、日々少しずつ、そのふっくら度合いや細かさが変化しており、身体や心の状態を反映すると言われている。「肌理」という言葉は他の言語に訳すことが難しく、日本独自の美意識を表す重要な概念となっている。

■デザイン2.EMULTION

化粧品では、乳化(EMULSION)という技術を用いて、「しっとりしているのにべたつかないクリーム」のような、水だけ・油だけでは実現できない豊かな感触を実現している。ポーラ化成工業が開発したオリジナル乳化物の様子をベンチに模し、身近に使うものの手触りの裏にある技術の奥深さを表現した。

▼ベンチデザインのさらなる詳細は以下。

SKIN:POLA_SKIN

EMULSION:POLA_EMULSION

ポーラ・オルビスグループのオルビスは、1987年の創業以来、ビューティーを基軸とする事業活動を通じた社会環境課題の解決を目指して、サステナブルな取り組みを継続している。今回の大阪・関西万博に設置される再生プラスチック配合のベンチは、オルビスのスキンケア容器(「オルビスユー」(医薬部外品)および「アクアフォース」(2024年2月販売終了)のローションボトルの充填前余剰資材(PET素材)を使用した。また、ベンチの木製台座には、02年より協働して環境保全活動を行っている公益財団法人オイスカから提供された、「甲州市・オルビスの森」の間伐材を採用している。

VOIDは、素早いプロトタイピングを強みに企画、実装を行うデザインコンサルティング会社であり、今回の大阪・関西万博では「島の蜃気楼」の企画を担当している。VOIDでは、大阪・関西万博で用いたプラスチック樹脂パネルをさらに再利用することも見据えて、会期終了後の新たな用途開発や移設活用に賛同するパートナーも広く募集するなど、建築やプロダクトが形を変えながら使い続けられていく“プロセスそのもの”を重視している。そのような持続可能性の追求と、美しさや使いたくなる造形を両立することに向けてポーラ化成工業と共通の思いがあり、連携に至った。