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ローカル企業に伍するスピード感を実現

ファンケルグループの化粧品事業の中国戦略が躍動している。特に子会社のネオエフが展開するプレステージブランド「BRANCHIC(ブランシック)」は2022年6月に越境ECモール「天猫国際(Tmall Global)」に旗艦店をオープン。24年の売り上げは前年同期比168%と絶好調なのだ。ファンケル(上海)貿易有限公司の藤原央介総経理は「日本の化粧品業界にとって、中国市場が重要な存在であることは変わらない。依然として成長の機会は多い」と説明。25年も現地マーケティング推進による売り上げ拡大を狙っている。

ファンケル(上海)貿易有限公司
藤原央介総経理

中国化粧品市場では、日本ブランドに逆風が吹いている。現地の景況感の悪化、ローカルブランドの台頭に加え、中国生活者の美容ニーズの細分化が進んでいることもある。シワ改善を例にすると、日本ではシワ改善クリームとして全般的なシワ改善に対応する商品が多いが、中国ではほうれい線に効く、目じりのしわ改善、目の周りのくすみ対応など、特定の部位に特化した訴求による商品が売れている。つまり、中国生活者の美の探求心は日本人の想像を超えるほど強く化粧需要は旺盛だが、日本市場の王道の戦略は水平展開できない、ということだ。

つまりブランシックの成功要因は現地化の徹底にある。ネオエフは中国戦略の権限を現地法人(上海)に委譲。さらに天猫国際旗艦店やドウイン旗艦店(TikTok)はブランド側主導でマーケティング推進をしやすい委託運営モデルを採用。運営代理店が在庫を持つ買い取りモデルよりもリスクは高いが、ブレないブランド価値の訴求が迅速な意思決定のもとで実行できることが最大のメリットになる。このように現地法人に権限と責任を集約し、陣頭指揮が取れる体制づくりが功を奏している。

例えば、中国では軽医療美容が流行している。ヒアルロン酸注射やレーザー治療など、手術を伴わない美容医療のことで、美を探求する中国女性の多くが日常使いしている。ブランシックの上海チームは、このトレンドをいち早く捉え、KOLマーケティング戦略に生かした。まずファンケルグループの特徴である無添加化粧品が生み出す安心・安全のコーポレートイメージを打ち出し、軽医療美容を受けた後の肌にも対応できることを訴求。スター商品の美容液「スイッチショット」は1剤のパウダーと2剤のエッセンスを混合して使用する仕組み。肌悩みを多角的にケアし、肌感覚に働きかける。「中国国内の国際認証機関が測定した効能効果を示すデータを添え、敏感肌にも使えるビタミンC美容液であることを発信。これが成分のエビデンスを重視する中国女性の心に刺さりました」と藤原総経理は破顔するが、これは戦略の始まりに過ぎなかった。

次のステップとして、トレンドワードの「院線級」を最大活用。中国生活者は医療機関やSPAなど専門性の高い領域で使われる商品に信頼を寄せている。それらのチャネルで使われるブランドを「院線級ブランド」と表現するのだが、軽医療美容を受けた後に使用する化粧品として、皮膚科医がブランシックを推奨していることを大々的に発信したのである。新しいトレンドを取り入れるのは、ローカルブランドは一日の長がある。しかし、ブランシックはいち早くマーケティング戦略に「院線級」を取り入れ、新客獲得に拍車がかかった。「権限委譲を徹底し、ブランド認知確立までの先行投資も続けています。本社と現地法人の両輪が回る理想的な状況になっています」と藤原総経理は手応えを語る。

これからブランシックが挑むのは、愛用者の育成。KOLマーケティングで得られるのは、話題の商品に飛びつく新客が多い。そこからブランド価値に共感し、商品を継続しようするファンを増やすことは容易ではない。「重要なのは顧客接点を増やし、さらに新客獲得数を引き上げ、愛用者育成の基盤を整えること。そのために越境ECだけでなく、一般貿易を開始する準備を進めているほか、変化の速い中国市場に対応する高頻度の商品投入に向けて動いています」と藤原総経理は意気込む。

じつは同社グループのブランド「Attenir(アテニア)」も中国市場で業績を高めている。18年に越境ECをスタートすると、基幹商品の「スキンクリア クレンズ オイル」が大ヒット。一般貿易と越境ECを加えた天猫全体のクレンジング売上ランキングで上位に入っている。満を持して25年に一般貿易をスタートする計画で、「アテニアの運営も現地法人に一元化する」(藤原総経理)という。ブランシックと同じように、現地化を徹底するアテニアも成長が加速するに違いない。


各ブランドの特徴を生かし中国本土での認知拡大を着々と進める

ファンケルは24年11月5日から10日までの6日間、中国・上海で行われた「第7回中国国際輸入博覧会」に出展し、ブランシック、アテニア、健康食品などを紹介した。実験コーナーや現地KOLやファンケル研究員によるライブ配信を通じて、モノづくりに対するこだわりを中国の業界関係者に伝えた。「中国は広いですから、全土の現地企業にアテニアやブランシックの存在を知ってもらい、世界観や機能性などに興味を持ってもらえた。このような種まきは、一般貿易のスタート時に生きてくる」と藤原総経理は指摘。国・地域の枠を越え、生活者起点に動くファンケルの海外化粧品戦略は、中国以外でも通用するはずだ。

月刊『国際商業』2025年03月号掲載