日本OTC医薬品協会は、「セルフメディケーションの日シンポジウム2020」を11月5日にオンラインで開催した。従来であれば7月24日の「セルフメディケーションの日」に開催していたが、新型コロナの影響で開催が延期されていた。

「『新たな日常』を支えるセルフメディケーションの推進」をテーマに開催した今回のシンポジウムでは、「OTC医薬品の潜在的な価値は?」のテーマで東京大学大学院薬学研究会薬政策学の五十嵐中客員准教授が基調講演。医療資源について、これまでは財源の適正配分の観点に終始していたが、新型コロナ禍を背景に病床や医師数など物理的な資源をどう配分するかの決定を強いられることを国民が目の当たりにしたことで、今後は広い意味での医療資源をできるだけ逼迫せずに活用するためにはどうすればいいかが議論の中心になっていくと、今後の方向性を示したうえで、近年では保険給付対象にメリハリをつけるべきといった議論が出てきていることを紹介。例えば昨年、花粉症の治療においてOTCで賄えるものは保険対象から外すべきといったことがメディアでも報じられるなど、それまではあまり語られることのなかった〝保険対象から外すことの是非〟が議論されるような大きな変化の時期を迎えているとした。

そのなかで軽度の疾患などはOTCの使用や健康管理で治癒する「セルフメディケーション」の推進について提言されるようになってきていることを説明。「医療の質の維持と個人負担の低減の2軸で考えていくべきこと」と指摘し、〝OTC置き換えの現状〟〝医療機関受診は本当に安上がりか〟〝OTC置き換えによる潜在的な医療費の削減幅〟の3点で考察した研究を紹介。〝OTC置き換えの現状〟について、ロキソプロフェン、鼻炎に使用する抗アレルギー薬、抗真菌剤、胃炎その他に用いるH2ブロッカー、ヘルペス、膣カンジダ症治療薬で評価したところ、ロキソプロフェンなどではOTCが使用できる効能に絞ると徐々に置き換え率が高まっている一方で、H2ブロッカーなどでは横ばいから微減の状態にあることなどから「内科的な疾患に近い領域になるとスイッチOTCへの転換は起こりにくいことが示された」と述べた。

〝医療機関受診は本当に安上がりか〟に関しては、抗アレルギー薬、胸やけ、腰痛に関しては3割負担の費用だけで見るとOTCの費用の方が高く、個人負担が大きいことが判明したが、「どうしても薬代だけに目が行きがちだが、医療機関を受診した際には一つは初診料や医学管理料など薬代以外にも費用が発生する。もう一つはそもそもみんなの公的負担額を合わせると常に医療機関受診の方が高額になる。こうしたことを伝えていき、しっかり国民の理解を得ることがスイッチ化促進の一助になる」と説明した。

〝OTC置き換えによる潜在的な医療費の削減幅〟においては、すでにOTCが使用可能な既存領域で6領域および今後OTCが入る可能性がある5疾患で約3200億円の潜在的な医療費削減効果があるとの試算を示した。

五十嵐客員准教授は、「今後本当の意味でセルフメディケーションを進めていくためにはこうした研究を土台に、次の段階では医療の質やQOLの視点を加味した評価が必要」と今後の検証の在り方を示した。

五十嵐客員准教授の基調講演を受け、経済同友会の菅原晶子常務理事、たかせクリニックの高瀬義昌理事長、健康保険組合連合会の幸野庄司理事がコメントを寄せた。

経済同友会の菅原常務理事は、「コロナにより患者の受診行動が変化。軽度で緊急性の低い受診が適正化されるのは歓迎すべきこと。セルフメディケーションのニーズを高める大きな契機になると考える」との見解を示した。

健康保険組合連合会の幸野理事は、「『自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること』というWHOの定義について、日本では以前は家庭に風邪や腹痛などの常備薬があり軽い症状であればそれらを服用して医師にかからずに治すなどある程度実践されていたが、薬局の機能が変わってきたこと、薬価制度の在り方という二つの要因で、現在セルフメディケーションは失われた」と指摘し、「保険財政を改善し皆保険制度を維持するために医薬品の保険収載の在り方を見直すべき時に来ている」と述べた。

続くパネルディスカッションでは、東京大学公共政策大学院院長・大学院経済学研究科教授の大橋弘氏をファシリテーターに五十嵐客員准教授、たかせクリニックの髙瀬理事長、日本OTC医薬品協会の平野格副会長が登壇。「医療用医薬品だけではなく検査薬のスイッチOTC化も進めていくべき」「新型コロナ禍で病院に行かないことの意義が認識され始めている」など今後の方向性を示唆する意見があがった。そのなかで平野副会長は、スイッチOTC化の促進について「新領域への挑戦で何をすべきか、GE推進策を参考にしながら策を講じていく」との考え方を示した。