花王スキンケア研究所・生物科学研究所・解析科学研究所は、将来の光老化を未然に防ぐことをめざし、微弱な生体発光バイオフォトンを利用した独自の肌ダメージ評価の研究に取り組んでいる。紫外線照射1~3分後のバイオフォトン量が多く、活性酸素種などによる目に見えないダメージを受けやすい肌ほど、角層水分量の低下や表面粗さの増加などの肌変化が起きていること、さらに、実際に紫外線を多く浴びた肌でも同様の変化が起こることを確認した。これらの結果から、紫外線のダメージは、角層水分量の低下や表面粗さの増加などを経て、光老化につながっていくと推察された。今回の研究成果は、「第49回欧州研究皮膚科学会」(2019/9/18~21)にて発表した。

紫外線は、肌に日やけを生じさせるだけでなく、将来的にシミ・シワ・たるみなどの光老化を引き起こすことが知られている。その主な要因が、紫外線を浴びたときに肌内に発生する過酸化脂質をはじめとする活性酸素種である。これらを肉眼で見ることはできないが、花王は、活性酸素種の発生に伴って生じる微弱な生体発光現象バイオフォトンに着目。なかでも、紫外線照射1~3分後に発生するバイオフォトン量を計測することで、紫外線を浴びた際の過酸化脂質量を推測できること、さらにそのバイオフォトン量が肌表面にはあらわれないほどのわずかな肌ダメージを表す指標になることを発見し、2019年6月に報告している*1。これら一連の研究から、紫外線照射1~3分後のバイオフォトン量が多い肌は、紫外線によるダメージを受けやすい状態であることもわかってきた。

*1 2019年6月10日 花王ニュースリリース「微弱な生体発光現象バイオフォトンにより、紫外線による目に見えない肌ダメージをはかる新しい評価法を開発https://www.kao.com/jp/corporate/news/2019/20190610-001/

今回花王は、バイオフォトン量が多い肌では、そのダメージが蓄積し、肌状態に何らかの変化が生じているのではないかと考えた。そこで、20代女性43名を対象に、紫外線照射1~3分後のバイオフォトン量を測定し、併せて、さまざまな肌性状との関係を検討。その結果、バイオフォトンの発生量が多くダメージを受けやすい肌では、角層水分量が低下し、表面粗さが増加する傾向があることを見出した(図1)。

シミやシワなどの肌悩みを気にする方が増えるのは、概ね30代以降である。しかし、紫外線によるダメージは日々蓄積されていくことから、光老化につながるような変化は、もっと早い段階からあらわれているのではないかと考えた。

そこで、シミ・シワなどの肌悩みが少ないとされる20代の女性を対象に、紫外線曝露量の違いによる肌状態の変化を調べた。6歳から最近までに太陽光にさらされていた標準的な時間を、生活習慣や屋外レジャー活動に関するアンケート調査(Arch. Dermatol. 144, 217-22〈2008〉)から予測。低曝露群(22名)と高曝露群(21名)で比較したところ、高曝露群の肌は、低曝露群と比べて角層水分量が有意に低いこと、表面粗さが有意に増加していることが明らかになった(図2)。

バイオフォトンの発生量が多く、紫外線による見えないダメージを受けやすい肌ほど、日々さらされる紫外線によって肌内部でのダメージが蓄積しやすく、角層水分量の低下や表面粗さの増加といった肌変化となってあらわれている可能性が示された。また、肌悩みが顕在化していない20代であっても、紫外線に多くさらされている肌では、角層水分量の低下や表面粗さの増加が確認された。このことから、紫外線によるダメージが蓄積されることでこれらの肌変化が起こり、これがひいては将来の光老化につながっていく可能性が考えられる。