歯磨きをルーティーンからエンタメに。2019年7月3日、子ども向け仕上げ磨き用歯ブラシ「Possi（ポッシ）」がベールを脱いだ。ソニーが展開するスタートアップの創出と事業運営を支援するプログラム「Sony Startup Acceleration Program（SSAP）」を通じて、ライオンと京セラが共同開発した。
子ども向け仕上げ磨き用歯ブラシ「Possi（ポッシ）」
コンセプトは「子どもが嫌がる歯磨きを楽しい時間に変える」で、デザイン、音楽、テクノロジーを融合させたもので、電気信号を振動（音）に変換する圧電セラミック素子を歯ブラシのヘッド部分に埋め込むことで、ブラシが歯に当たると歯ブラシのヘッド部分から歯に振動（音）が伝わり、音楽などが楽しめる。歯ブラシのヘッド部分が歯や口腔内に触れている間のみ、本人に音が聞こえる。スマートフォンなどをオーディオケーブルで接続することで、好みの音楽が再生可能だ。
子どもの反応について、京セラとライオンの担当者は次のように言う。
「3歳の娘がいるんですが、最初は不思議そうな顔をしましたが、状況がわかると、興味を示し、何曲もやりたい、と楽しんでくれた」（ライオン 研究開発本部 イノベーションラボ 萩森敬一氏）
「うちの子供に実験台になってもらった。歯ブラシに対する、仕上げ磨きへの心配はなくなりました。0歳の子供もいますが、1～2歳になっても心配していません」（京セラ 研究開発本部 メディカル開発センター 稲垣智裕氏）
左からライオン 研究開発本部 イノベーションラボ 萩森敬一氏、京セラ 研究開発本部 メディカル開発センター 稲垣智裕氏、ソニー Startup Acceleration 宮崎雅氏）
「Possi」開発のきっかけは、稲垣氏自身が仕上げ磨きに悪戦苦闘した経験である。その時間のストレスを減らすことで、家族の幸せな時間を少しでも増やしたい。それを実現できる商品を同じ悩みを持つお父さん、お母さんに届けたい、と考えた。その思いを胸に、稲垣氏は18年10月にSSAPに足を運び、翌年1月にライオンがこのプロジェクトに参画した。「歯ブラシを作りたいのに、歯ブラシの作り方がわからなかった。新規で作るのはハードルが高い。歯ブラシのリーディングカンパニー（ライオン）に打診して、担当者レベルでやってみたい、という共感が生まれ、コラボが始まった」と稲垣氏は説明。それを受けて、ライオンの萩森氏は次のように述べる。
「稲垣さんから話をもらったとき、商品のコンセプトの魅力があり、面白いと思った。稲垣さんに熱意もあった。異業種の協業は、ライオンにとってチャレンジングのところがあったが、それはイノベーションラボの役割に合致している。『やる』という選択肢しかなかったんです」
「Possi」には、京セラとライオンの技術が詰まっている。「歯ブラシの開発で難しいところは、振動を音で伝える性能と歯ブラシの性能の両立に尽きる。歯ブラシのゴシゴシの音があっても、ちゃんと音が伝わる。毛の配列なども影響する。ものすごく苦労した」と稲垣氏は振り返る。
京セラは、セラミック要素技術を生かし、歯ブラシのヘッドサイズに合わせて縦横サイズからC面カット、積層数までカスタマイズした圧電セラミック素子を開発。これに合わせて開発したデジタル駆動アンプを組み合わせることで、小型、軽量、省電力で十分な振動パワーを持つアクチュエータを実現した。
一方、ライオンも、圧電セラミック素子内蔵という従来にはない条件のもと、独自のハブラシヘッドを開発。ブラシの毛もオリジナルで、ライオンが持つブラシ部設計技術により「高い振動伝達効果」と基本機能の「優れた清掃性」を両立した。また、ライオン独自の高分子材料技術、成型加工技術により、振動アクチュエーター内蔵の「中空構造」のプロトタイピングを具現化。そして歯ブラシとしての品質確保に向け、リーディングカンパニーの知見を生かした独自評価基準も確立し、子ども向け商品に必要な「安全・安心」を担保した。
19年7月3日、ソニーが運営するクラウドファンディングサイト「First Flight」にて支援募集を開始した。セット内容は「Possi １セット、替えブラシ3本」で、「４ヶ月で、子どもの歯ブラシ意識を変えられる」（稲垣氏）セット内容となっている。価格は2種類。はじめてのPossi「お買い得プラン」は1万4800円（税込）で、各色（3種類）先着100セット。はじめてのPossi「ベースプラン」は1万7500円（税込）である。目標金額は2000万円。約1300人の顧客ニーズを可視化できれば、商品化に大きくつながる計算。「クラウドファンディングの目的は、テストマーケティング。アーリーアダプターの意見を聞いて、今後の販売に参考にする。確約はできないが、意見を受け止めて、前向きに検討し、一般販売に進む」と稲垣氏は意気込む。
