中国越境EC卸売り、1品だけで年商8億円
ハウスオブローゼは3月19日、アイスタイルと海外事業に関する資本業務提携を結んだ。アイスタイルが取得するハウスオブローゼの株式は、全体の5.53%に当たる26万株で、アイスタイルのグループ会社であるアイスタイルトレーディングをハウスオブローゼの海外展開における総代理店に指名。アジア各国のEC、リアル店舗での販売を進める。特に、中国越境ECビジネスの拡充に成長エンジンを求めた格好だ。
というのは、ハウスオブローゼの業績は、数年前からアイスタイルトレーディングを通じて展開している中国越境ECが支えているからだ。同社は、自社直営店を全国の百貨店、専門店、駅ビル、量販店などに展開している化粧品企業である。直営店で顧客にカウンセリング化粧品に強みがある。売上げは、収益の主力である直営店部門が減収であるにもかかわらず、19年3月期が増収となる見込み。その理由は、あまり報道されていないのだが、中国向け越境ECの化粧品卸が絶好調であることが大きく寄与している。もちろん、これは売上げのみならず、収益にも大きく貢献していることも指摘しておく必要がある。19年3月期は営業利益も大幅増益になるとみられている。
同社の中国向け越境ECへの化粧品卸は、初年度の18年3月期にいきなり年商6億円となった。もちろんまったく想定外の規模だった。この19年3月期も前期同様に期初には年商2億~3億円に腰折れするときわめて慎重な見通しを出していた。しかし、現時点では19年3月期は年商8億円(前期比33%増)を見込んでいる。
実は19年3月期は第2四半期までに5億円の売上げを達成しているのだが、米中貿易摩擦の影響で第4四半期などの販売を慎重にみているためだ。それでも年商8億円なら続伸といえるのは間違いない。おそらく20年3月期は年商10億円台に乗せるのではないかと推定されている。
中国向け越境ECへの卸売り販売は、スタート時から越境EC業者に買取制で卸売りされている。当初はこのような大きな金額になるとはまったく想定しておらず、きわめてコンサバティブに構えていた。売れるという確信はなく、仮に売れても長続きはせず、すぐに腰折れするとみて、売上げ計画に期待して織り込んでいたフシはなかった。だが、予期せぬほどの「大ヒット」となり、そのうえヒットが継続している。
しかも、越境ECに納入されているのは、たったひとつのアイテムである。ワンアイテムで年商8億~10億円規模というのは、天の恵みのようなことにほかならない。その上、そのアイテムは、同社が得意とするカウンセリング化粧品ではなく、セルフ化粧品のボディスムーザーだった。確かに、これは想定できない現象が現実に起こったというしかない。
キッカケはSNSでファンビンビンが愛用を示唆
ハウスオブローゼのボディスムーザーが、中国で突然ブレークしたのは、ただ単に日本の化粧品だからという理由からではない。一般に中国の女性は、日本の化粧品に対して憧れに近い思いを持っているといわれている。それは間違いではないが、それだけで売れるほど、世の中は甘くない。
ヒットの背景には、なんと同社の決算短信にはまったく書かれていないが、ファンビンビンの影響もあるようだ。彼女は、巨額脱税事件で日本でも広く知られることになった中国のトップ女優だ。当然ながら脱税事件以前のことだが、SNSでいくつかの日本の化粧品を日常的に使っているといったコメントを書き込んだ。そのなかの画像に「Oh!BabyボディスムーザーN」(570g・2160円)がはっきりと写っていたという。中国一の美女は、日本の百貨店などのハウスオブローゼ直営店で、ボディスムーザーを買い込んでいったとみられる。ハウスオブローゼのボディスムーザーを事実上、リコメンドしたのだから、その影響力たるや凄まじく、それを見た中国女性たちに「Oh!Baby」のブランドネームを強く印象付けた可能性が高い。
「Oh!BabyボディスムーザーN」は、累計4000万個の販売実績がある商品で、天然温泉に浸かった時のように肌に滑らかなスベスベ感を得られる効果がある。同社は、多年に渡り「Oh!BabyボディスムーザーN」をリニューアルなどのテコ入れで開発・営業を続けてきていたのも事実だ。それが大きく花開いた。セルフ商品でそう高価格というわけではなく、いわば誰でも購入できる商品である。その誰にでも買えるというところが、むしろ中国国内での大ブレークにつながり、大型商品化をもたらしている。
ハウスオブローゼは、もともとカウンセリング化粧品に強い企業だ。中国向け越境ECに乗せるセルフ化粧品は、ほとんどラインアップがなく、国内で実績があったセルフ化粧品は、唯一この「Oh!BabyボディスムーザーN」のみだった。中国向け越境ECに対応できる唯一の武器が、中国で大ブレークとなった。
中国向け越境ECの年商8億~10億円は「Oh!BabyボディスムーザーN」のみで実現され、しかも卸価格ベースのものである。同社は、ブームは長く続くわけはないと、いまでも慎重に構えているが、ファンビンビンの脱税事件以降も人気が大きく反落しているわけではない。いわば、ファンビンビンのSNSをキッカケにしていまでは中国国内で安定した人気を維持している。
新EC法の影響はなく、むしろ正常化されると分析
「Oh!BabyボディスムーザーN」は、中国向け越境ECで売れているだけではない。中国留学生などが輸入代行業者になるケースもあるようなのだが、中国の輸入代行業者が日本の化粧品を買い込んでいくのはよく知られている事実だ。「Oh!BabyボディスムーザーN」は、ハウスオブローゼ直営店の店頭からなくなるほど売れたといわれる。いわゆる”爆買い“なのだが、中国人輸入代行業者が、買い込んでいった、中国国内で転売するために買い集めていったケースが少なくない。
“爆買い”といっても、一般個人の中国人旅行客のケースもないではないが、輸入代行業者の訳ありの大量購入が少なくないわけである。これが通関面などで脱税を生んで問題となっていた。
そうしたことから19年1月から施行されている中国電子商取引法(新EC法)の影響が懸念されるが、ハウスオブローゼは、むしろ正常化されると冷静に受け止めている。
ハウスオブローゼが「Oh!BabyボディスムーザーN」を卸している中国向け越境ECは、通関にかかわる申請・認証などをクリアしており、税金も適法に納めている。ハウスオブローゼは越境ECについては、新EC法はまったく影響はないとみている模様である。
一方、輸入代行業者の場合は影響が出るとみられる。新EC法は、輸入代行業者の税金逃れを取り締まるのをターゲットにしている面があり、ハウスオブローゼ直営店でのいわゆる“爆買い”は減少する見込みだ。だが、ハウスオブローゼは、その分は中国向け越境ECでの購入が増加するとみている。新EC法施行で、むしろマーケットが正常化されるとみているわけである。
季節限定商品で「Oh!Baby」のシナジー効果浸透
ハウスオブローゼとしては「Oh!BabyボディスムーザーN」に続くセルフ商品をマーケットに投入したいところだ。「Oh!BabyボディスムーザーN」の中国人女性顧客ユーザーは、ハウスオブローゼから新たにセルフ製品が発売されれば購入する可能性が大きい。ここはチャンスにほかならない。当然、ハウスオブローゼは新商品の企画・開発に慌ただしく取り組んでいるが、「Oh!BabyボディスムーザーN」に続くセルフ商品の開発・市場投入はおいそれとはいかない模様なのだ。
当面、ハウスオブローゼは「Oh!BabyボディスムーザーN」の季節限定商品の投入を継続していく見込みだ。狙いは、季節限定商品の投入により「Oh!BabyボディスムーザーN」の大ブレークのシナジー効果を引き出すこと。実際、19年1~3月の季節限定で「Oh!BabyボディスムーザーCB(クランベリーコンポートの香り)」(350g・1620円)を発売。季節限定商品でラインアップ拡充に踏み込んでいる。そして、セルフ化粧品分野で次の大型商品を生み出すリードタイムをつくろうとしている。
ハウスオブローゼにとっては、天から降って湧いたような「Oh!BabyボディスムーザーN」人気の享受となったわけである。何によらずコンサバティブな同社だが、「Oh!BabyボディスムーザーN」の中国での絶大な人気化は、収益への貢献のみではなく、商品開発&販売面のビジネスチャンスを大きく拡大している。
中国マーケットでのブランド浸透を進めながら、セルフ化粧品でのマーケットリサーチを体験しており、今後の開発&販売面で自信を深めているのも事実である。「Oh!BabyボディスムーザーN」に続く大型商品を生み出すのはおいそれというわけにはいかないが、それにトライするしかないビジネスチャンスを手にしているといえそうだ。
焦点は国内直営店の「再構築」を進められるか
さらに大きかったのは、「Oh!BabyボディスムーザーN」が一品で大型商品化したことが経営政策面でのオプションに余裕を与えていることだ。
ハウスオブローゼは、主力の直営店部門で不採算に陥っている店舗の退店を行っている。直営店、すなわち店舗販売は、このところ傾向的にネット通販に打撃を受けており、直営店の「再構築」が課題となっている。この不採算店退店という「再構築」を進めるうえで、「Oh!BabyボディスムーザーN」の中国でのブレークは大きな支援材料になっている。
同社の19年3月期第3四半期決算は、売上げ106億円(前年同期比0.8%増)と小幅増収にとどまったが、営業利益6億4500万円(同37%増)、経常利益6億4400万円(同43%増)、純利益4億0400万円(同50%増)と大幅増益を実現した。
同社の収益源で主力部門といえる自社直営店は、不採算店16店の退店を行って223店舗に縮小しており、直営店売り上げは前年同期比2.7%減となっている。これが売上げの伸び悩みの主因にほかならない。ただ、既存店ベースでは百貨店内店舗が横ばいを維持し、専門店内店舗では売上げ、客数が前年同期を上回ったとしている。不採算店舗の退店が奏功して販管費比率が65.2%(前年同期67.0%) と大きく改善されている。それに隠れ要因として、中国向け越境ECで「Oh!BabyボディスムーザーN」が貢献していることが営業利益などの収益を押し上げている。
この19年3月期通期では、売上げ143億円(前期比2.3%増)、営業利益6億8000万円(同22%増)、経常利益6億8000万円(同28%増)、純利益3億5000万円(同24%増)を見込んでいる。ただし、この計画数字はコンサバティブに出されているもので、最終的には上方修正される可能性が濃厚だ。配当は増配余力(予想1株当たり利益74.4円)があるものの、年40円配と据え置くとしている。
ジャーナリスト 小倉正男