資生堂は、独自のエピジェネティクス研究により、遺伝子レベルで始まる早期のシミ発生要因を発見した。シミは、表皮基底層にあるメラノサイトでのメラニン過剰生成が主な要因と考えられているが、同研究により、後天的な変化によって表皮にある「mTOR(エムトア)タンパク質(細胞同士のシグナル伝達を担うタンパク質キナーゼの一種)」が活性化することが、より早期のシミ発生要因である可能性を見いだした。また「mTORタンパク質」の活性化を抑える複合成分“4Mアルゲ(フランス産海由来エキスを含む複合成分)”を開発した(図1)。

図1
エピジェネティクス研究とは、同じ遺伝子を持って生まれた一卵性双生児であっても、育つ環境が異なると後天的に遺伝子の働き方が変わることに着目した新しい研究分野だ。資生堂はこの研究分野に5年前から取り組み、2021年には未来の肌の明るさを左右する遺伝子「TIPARP」を見いだしていたが、新たにシミの発生に関わる「mTORタンパク質」の特定に成功した。今後は、今回開発した複合成分“4Mアルゲ”を、「シミが作られにくい肌質」をかなえるためのスキンケアに応用していく。
なお、同研究の成果の一部は25年9月15日~18日開催の第35回国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)カンヌ大会で発表した。
同社は、年月の経過とともに数や濃さを増し、多様に変化していく“シミのライフサイクル”に着目している。昨年、長年の課題だった「シミのある肌をリアルタイムかつ細胞レベルで観察すること」に初めて成功し、シミの悪化要因を解明した。一度できてしまったシミが新たなシミを呼ぶメカニズムが明らかになり、その連鎖を断ち切るトリプル薬剤の開発に成功した。次に同社は“シミの発生段階”に視点を移すことにした。肌表面にシミが現れる前の肌内部でどのような変化が起こっているのかを明らかにし、シミが作られにくい肌質へ導く方法を見いだしたいと考えた(図2)。そこで、遺伝子レベルでの検証が可能なエピジェネティクス研究からシミの早期発生要因に迫った。

図2
シミの早期発生要因を解明するためには、紫外線の影響などでシミが発生している肌でのみ、エピジェネティックに働き方が変化している遺伝子を見出す必要があると考えた。そこで同社は、神戸大学の錦織千佳子名誉教授(当時、神戸大学医学部皮膚科教授)と共同で、シミがない肌とシミがある肌の情報を用いて遺伝子の特定を進めていった。遺伝子発現解析とDNAメチル化解析を組み合わせた独自解析を行った結果、約2万個の遺伝子の中からシミに関連する複数の遺伝子の特定に成功した。またその遺伝子をもとに作られる「mTORタンパク質」が、シミがある肌において過剰に活性化していることを突き止めた(図3)。

図3
シミの発生段階で表皮細胞が異常に増えることは既に知られているが、「mTORタンパク質」のシミ発生への関与を明らかにするための検証を進め、その原因の一端が「mTORタンパク質」の活性化であることが分かった(図4)。

図4
また、「mTORタンパク質」を活性化させた表皮細胞にメラニンを添加すると、正常な表皮細胞と比べてより多くのメラニンが細胞内に蓄積されることが確認された(図5)。以上のことから「mTORタンパク質」の活性化は、表皮細胞の過増殖とメラニンの過剰蓄積を引き起こす早期のシミ発生要因であり、シミが作られにくい肌質へ導くためには、この要因を抑える必要があると考えられる。

図5
「mTORタンパク質」の活性化を抑制する成分の探索を行ったところ、フランス産海由来エキスを含む複合成分“4Mアルゲ”に効果を見いだした(図6)。“4Mアルゲ”には、表皮細胞へのメラニン蓄積を抑制する効果も見られ(図7)、シミの発生を早期に抑える可能性が示された。

図6

図7






















