マンダムは、名古屋市立大学なごや先端研究開発センター富永真琴特任教授との共同研究により、皮膚の感覚受容体TRP(Transient Receptor Potential)チャネル、特にTRPV1に着目した研究を進めてきた。TRPV1は熱や酸などの刺激に反応し、チクチク・ヒリヒリといった不快感の発生に関与することが知られている。
同研究では、大気中微粒子(PM2.5)や紫外線といった環境ストレスが、神経伸長因子の発現バランスを乱し、TRPV1の過剰な活性化を引き起こすことを明らかにした。これにより、環境ストレスで肌が過敏になり不快刺激を高める一因となることが示唆された。
さらに、約2700種の化合物からTRPV1を抑制する成分を探索した結果、特定の成分が含まれたカミツレエキスに有効な作用を見いだした。同エキスを配合したモデルローションの連続使用試験では、刺激感の低減が確認できた。この成果は、環境ストレスにより過敏な状態になった肌を安定させ、快適な使用感を実現する新しい敏感肌ケアの提案へつながる。
この研究成果については、2025年9月15~18日にフランス・カンヌで開催された第35回IFSCCカンヌ大会2025において発表した。
紫外線、大気中微粒子(PM2.5)、乾燥など、人間の肌は日常的にさまざまな環境ストレスにさらされている。これらの要因はバリア機能の低下や炎症反応を引き起こすだけでなく、ピリピリ感やヒリつきといった「不快な刺激感」にも関与していることが分かってきた。
この「不快な刺激感」のメカニズムについて、マンダムは末梢神経に存在する感覚受容体TRPV1に注目している。TRPV1は熱や酸などの刺激で活性化し、痛みや不快感を伝える役割を持っている。
同研究では、まず環境ストレスに対するTRPV1の反応を確認した。まず、環境ストレスとしてPM2.5とUVBを用い、それらをヒト摘出皮膚に曝露したあとの培養液をTRPV1に処理したところ、TRPV1が活性化しやすくなることが分かった(図1)。
次に、PM2.5とUVBをケラチノサイトに対して処理をした結果、神経伸長につながる因子の変化が確認された(図2)。
これらの結果から、環境ストレスによって皮膚内でTRPV1を活性化する物質が産生され、さらにTRPチャネルを有する神経が伸長することによって、皮膚が過敏な肌状態になる可能性が示唆された。
続いて過敏な肌状態でも使用できるスキンケア開発を目指し、TRPV1活性を抑制する成分探索を行った。
TRPV1を安定的に発現する細胞株を樹立し、同時に約100種のサンプルを高感度かつ高速で測定できる評価系(ハイスループットスクリーニング)を構築した。この評価系を用いて、天然由来化合物約2700種類を対象としたスクリーニングを実施した結果、特定の成分が含まれたカミツレ(Chamomilla recutita)エキスにTRPV1の活性を抑制する作用がある可能性を見いだした。
さらに、カルシウムイメージング法※1やパッチクランプ法※2を用いた解析によりTRPV1の活性を安定的に抑制することを細胞レベルで確認した(図3)。
※1:TRPチャネルが開いて細胞に入ってくるカルシウムを蛍光で光らせ、細胞の蛍光の強さを画像で記録する、TRPチャネルの活性を間接的に測る手法
※2:微細な電極を細胞膜に当ててチャネルを通るイオンの流れによる電流を測定することで、TRPチャネルの活性を直接的に測る手法
TRPV1活性化剤による不快刺激に対して、感受性の高い被験者を選定し、TRPV1活性化剤と特定の成分が含まれたカミツレエキスを配合したモデルローションを塗布したところ、カミツレエキスを含まない場合と比較し、TRPV1活性化剤による不快刺激が有意に低下した(図4)。これにより、同成分がヒトにおいてもTRPV1アンタゴニスト※3として作用することが確認できた。
さらに敏感肌での連用による特定の成分が含まれたカミツレエキスの効果を確認した。まず、化粧品の刺激感受性を評価する方法として広く用いられる乳酸刺激テストにより敏感肌の被験者を選定し、特定の成分が含まれたカミツレエキスを配合したローションを8週間連用してもらったところ、刺激感に対する感受性が低下することが確認された(図5)。
※3:ある受容体の働きを妨げる物質。ここでは、TRPV1の過剰な反応を抑える成分を指す
これらの結果から、特定の成分が含まれたカミツレエキスが敏感肌の刺激感軽減に有効であることが示された。
同研究は、環境ストレスがTRPV1を介して敏感肌を悪化させるメカニズムを解明するとともに、特定の成分が含まれたカミツレエキスが敏感肌の改善に有効であることを実証した。これにより快適な使用感を提供する新しいスキンケア開発が可能となる。