ファンケル
メイク汚れの落ちる過程を可視化し新たな水性クレンジング料を開発
ファンケルは、分子シミュレーション技術(コンピューター内の仮想空間で原子・分子の動きを再現し、物理現象を分子レベルで解析する手法)と小角X線散乱法(物質にX線を照射したときに生じる散乱像から物質の構造を分析する手法)を用いてメイク汚れの落ちる過程を可視化し、保湿剤を選定することで新規水性クレンジング料の開発に成功した。メイク汚れを落とす性能を解明することで、肌に影響を与えやすい界面活性剤が低濃度でもしっかりとメイクを落とせて、高い安全性を有したクレンジング料となる。同研究は、慶應義塾大学、日光ケミカルズの協力を得ている。
なお同成果は、2024年10月14〜17日に開催された第34回 国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)イグアス大会2024にて、慶應義塾大学および日光ケミカルズと共同で発表を行った。
ファンケルはオイルクレンジングの処方技術に強みを持っているが、中にはオイルの使用感を好まない人や、世界を見るとオイルクレンジングを使用しない文化を持つ国も多数ある。そうしたニーズに沿えるよう、メイクを水性クレンジング料でもすっきり落とせる同研究に着手した。
一般的に水性クレンジング料の洗浄性能を高めるためには、界面活性剤の濃度を高める必要がある。しかし、そのようなアプローチでは肌刺激や乾燥を生じさせてしまう。同研究では、界面活性剤の濃度を低く抑えながら、効率良くメイク汚れを落とす水性クレンジング料を開発するために、ミクロで洗浄メカニズムを可視化し、洗浄性能と安全性を両立したクレンジング料の開発を行った。
クレンジング料の洗浄性能には、界面活性剤の種類と配合量、配合成分の集合構造が影響する。この集合構造を分子シミュレーション技術と小角X線散乱法を用いて可視化した。その結果、保湿剤の種類によって集合構造と洗浄性能が大きく異なることを見いだした。
界面活性剤の濃度を4%と低くし、保湿剤としてシクロヘキシルグリセリン(保湿効果が高いにもかかわらずベタつき感の少ない、肌になじみの良い保湿成分)を配合した処方A、グリセリン(保湿性に優れた化粧品に最も頻繫に使用される保湿成分)を配合した処方Bの分子シミュレーション結果となる。処方Aは洗浄性能が高く、処方Bは洗浄性能が低い処方だ。どちらも同じ球状の集合構造となっているが、球の内部に着目すると、保湿剤であるシクロヘキシルグリセリンが球の内部に取り込まれており、保湿剤であるグリセリンが球の外部に存在していた。また、処方Aは界面活性剤がモザイク状に分散した構造となったのに対し、処方Bは界面活性剤がタマネギのような層状の構造となっており、界面活性剤の間に保湿剤であるシクロヘキシルグリセリンが入って界面活性剤の分散性が高まり、メイク汚れへの吸着を促進した結果、洗浄性能が向上したと考えられる。これらの結果より、保湿剤の種類と集合構造の内部構造の違いが、洗浄性能に寄与することを確認した。
さらに、洗浄性能の違いが生じるメカニズムを明らかにするため、クレンジング料中の配合成分が形成する集合構造がメイク汚れにどのように吸着するのか調査した。分子シミュレーションでメイク汚れへの吸着の様子を可視化した結果、保湿剤としてシクロヘキシルグリセリンを配合した処方Aは、直ちにメイク汚れに吸着したのに対し(上図)、保湿剤としてグリセリンを配合した処方Bは、メイク汚れに対して球状の集合構造が直ちに吸着していないことが明らかになった(下図)。
また、実際に機器を用いてメイク汚れへの吸着量を評価した結果、保湿剤としてシクロヘキシルグリセリンを配合した処方Aは、処方Bと比べて吸着量が多いことが明らかになった。
この結果により、保湿剤の種類によってメイク汚れの吸着速度と量が異なることが分かり、洗浄性能を高めるために重要な要素であることが示唆された。
前述の検討結果を基に、簡易な処方で水性クレンジング料を作成してウォータープルーフタイプのアイライナーに対する実際の洗浄性能を評価した。その結果、保湿剤としてシクロへキシルグリセリンを配合した処方Aは、高いメイク洗浄性能を有していることが分かった。
このことから、保湿剤の種類を選定することにより、界面活性剤が低濃度でも高いメイク落ちを有した水性クレンジング料を開発できることが確認できた。
ファンケル総合研究所 化粧品研究所 洗浄剤開発グループの三譯秀樹課長は、「本研究は、オイルクレンジングの技術を水性クレンジング料に応用することで、水性クレンジング料のすっきりした使用感はそのままに、メイクをしっかりと落とせる新たなクレンジング料の開発を考えたのがきっかけです。オイルクレンジングと水性クレンジングでは洗浄メカニズムがまったく異なります。そのため、水性クレンジング料の洗浄メカニズムを可視化することで、新しいアプローチで洗浄性能の向上を試みました。本研究で見いだした処方骨格を活用し、今後グローバル展開に生かせる水性クレンジング料の製品開発へ応用していきたいと思っています」とコメントした。