花王スキンケア研究所・ヘアケア研究所は、スマートフォンで素顔の写真を撮影するだけで、皮脂中に含まれるRNA(皮脂RNA)発現情報に基づく肌タイプを即時に推定できるモデルを構築した(図1)。今回開発したモデルは、RNAを直接採取・解析する必要がないため、RNA解析に要する時間、高額な費用がかからず、生活者が場所を選ばずにRNA発現情報に基づく肌タイプを利用することが可能となる。
花王は、RNAという客観的な生体指標を共通のモノサシとして社会で広く利用しやすくすることで、生活者が自分に合う商品やサービスを効率的に選択できる仕組みづくりに貢献していく。

今回の研究成果は、2025年6月25~27日に福島県にて開催のDICOMO2025 マルチメディア、分散、協調とモバイルシンポジウムで発表予定だ。

図1.顔画像から皮脂RNA発現情報に基づく肌タイプを推定

市場には多種多様な化粧品とその情報があふれている。美容サイトのクチコミ評価を参考にして、化粧品を選ぶ生活者は数多くいるが、同じ商品でも人によって評価が分かれることがあり、自分の肌に合うかどうか悩ましいことが多々ある。その理由のひとつとして、体や肌の特徴が個人で異なることがある。そこで花王は、個人の体や肌の特徴を表す客観的な指標があれば、生活者が商品を選択する際に役に立つと考えた。
花王は、19年に皮脂中にRNAが存在することを発見し、あぶら取りフィルムで肌を傷つけることなく顔の皮脂を採取し、そこからRNAを抽出して網羅的に解析する「皮脂RNAモニタリング」技術を開発した。さらに、皮脂RNAの発現情報を類似度により分類することで、「免疫」「角化」など皮膚の機能に重要な遺伝子の発現特徴が異なる、少なくとも二つの肌タイプが存在することも発見した。DNAは、一生変化しないその人固有の情報だが、RNAは、体調や食生活といった環境要因によって日々変化するため、その時の肌状態を知るのに有用だ。そこで花王は、RNA発現情報に基づく肌タイプは、生活者が商品を選択する際の客観的な指標のひとつになりうると考えた。
皮脂RNAは、非侵襲で場所を選ばず採取できる利点があるものの、解析には1週間程度の時間と高額な費用が必要で、より多くの人に手軽に使ってもらうには課題があった。そこで花王は、この課題を解決するために、スマートフォンで素顔の写真を撮影するだけで、皮脂RNA発現情報に基づく肌タイプを即時に推定できる技術開発に挑戦した。

花王は、顔の見た目から皮脂RNA発現情報に基づく肌タイプを推定できるかどうか確かめるため、二つの肌タイプの顔画像を検証した(18年8月~19年4月に20~59歳を対象に実施)。

日本人女性343名を対象に、皮脂RNA解析で肌タイプを判定、その後カメラと被写体の距離や照明環境を一定にして素顔の写真撮影を行い、見た目に表れる特徴を比較した。その結果、肌の色や形状のいくつかの観点で、二つの肌タイプの顔画像に統計的に優位な違いがあることがわかった(図2)。

図2. 二つの肌タイプの顔画像イメージ

花王は、実際の運用を想定し、スマートフォンで撮影した日本人女性3248名(学習モデル作成に2848名、学習モデル検証に400名)の素顔写真で検証を進めた(22年4月~23年12月に20~59歳を対象に実施)。皮脂RNA解析で肌タイプを判定し、その後異なる二つの条件で学習させて、AIモデルを構築した。
一つ目は、事前の検証で見いだした肌の色や形状の特徴から、肌タイプを推定する機械学習モデル、二つ目は、顔全体の画像から、肌タイプを推定する深層学習モデルだ。深層学習は、撮影条件など本来の肌の違いではないノイズの影響をうけやすい反面、人が注目していなかった要素も抽出できる可能性がある。
さらに、それぞれが異なる視点で学習を行うため、二つを組み合わせることで弱点を補完できると考え、これらの学習を組み合わせたモデルも構築した。
それぞれのモデルが、どのくらい肌タイプを当てられるか検証した結果、組み合わせたモデルで最も高い正解率67%が得られ、顔画像から皮脂RNA発現情報に基づく肌タイプの推定が可能だということがわかった(図1)。

今回、スマートフォンで素顔の写真を撮影するだけで、皮脂RNA発現情報に基づく肌タイプを即時に推定できるモデルを構築した。今後花王は、このモデルによって推定される皮脂RNA発現情報に基づく肌タイプという客観的な指標を使って、生活者が自分に合う商品を選択できる仕組みの構築、次世代サービスや商品の開発、提案などを推進していく。