資生堂は、シミ研究の常識を覆すような革新的なアプローチで、シミの悪化メカニズムを解明した。生きたヒトの皮ふをリアルタイムで観察することができるFLIM(Fluorescence Lifetime Imaging Microscopy:蛍光寿命イメージング顕微鏡法。蛍光分子の固有の性質である蛍光寿命を利用して画像化する観察手法)を用いて、シミ部位の細胞代謝を評価する新手法を世界で初めて(FLIMによる特定の電子伝達体から表皮のシミ部位の細胞代謝を評価する方法が世界初)確立し、これまで観察が難しかった、シミがどのように悪化していくかという「シミの一生」を時間軸で捉えることに成功した。本手法を活用することで、シミ部位で起こる細胞老化現象がシミの悪化根源であることを解明し、シミの悪化に対応する独自のトリプル薬剤を開発した。「シミの一生」に新たに着目し、従来のシミ研究の常識を覆すような、シミの悪化根源へ対応する新たなソリューションを実現する。

この画期的な研究成果は、化粧品技術に関する世界最大の権威ある研究発表会であるIFSCCの口頭発表基礎部門で最優秀賞を受賞し、次世代の化粧品技術として高く評価された。加えて、2024年11月2~3日に開催された第32回日本色素細胞学会学術大会にて発表した。

同社は100年を超える肌研究と先進のシミ研究から、これまでメラニンやシミが発生する肌内部環境への多角的なアプローチで様々なシミ形成要因を解明してきた。シミを解き明かすには皮ふ内部構造の観察が重要であると考え、シミでのメラニンの蓄積具合や異常な毛細血管の形成、メラニンの過剰生成を促す黒化スパイラルや慢性微弱炎症といったシミ特有の要因を突き止め、ソリューションを開発してきた。一方で、こうしたシミ特有の要因に結びつく肌内部のダイナミックな変化を実際の皮ふと同様の環境において細胞レベルで捉える必要があることがわかってきた。しかしながら、生きたシミ内部を細胞レベルで、かつリアルタイムで解析することは困難だった。シミの根本解決のためには、「シミの一生」に着目し、皮ふ細胞の一生で起こっている活動状態、すなわち細胞内の代謝変化として捉える必要があった。今回、FLIMを用いて生きた皮ふを観察する新手法を確立し、世界で初めてシミにおけるミトコンドリア代謝を観察し、その代謝状態を検証することに挑戦した。

FLIMを用いた解析によって、生きたヒトの皮ふのシミ部位では、非シミ部位に比べて表皮細胞内のミトコンドリア代謝が低下していることが分かった。また、過剰なメラニン蓄積が、このミトコンドリア代謝の低下を起こすことを確認し、さらに細胞老化も引き起こすことを明らかにした。シミ部位では、メラニンの蓄積によってミトコンドリア代謝が低下し、細胞老化が生じることでシミが悪化すると考えられ、いわば、シミがシミを呼ぶ悪化根源があることを明らかにした。

 

ヒトの皮ふで6週間の連用塗布を行った結果、資生堂独自のトリプル薬剤を配合した基剤において、シミにおけるミトコンドリア代謝が高まることを見出した。細胞老化の主要な要因のひとつであるミトコンドリア活性低下を抑えるとともに、老化した細胞から分泌され、さらに細胞老化を悪化させるSASP因子のひとつであるGROαを抑制することが分かった。