ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業は、2024年10月14日~17日にブラジル・イグアスで開催される第34回国際化粧品技術者会連盟(以下IFSCC)世界大会の口頭発表部門において、日常体験を魅力的にする「化粧品の感覚変容ツールとしての新たな可能性」に関する新知見を発表。また、ポスター発表部門において、超微細な泡「ウルトラファインバブル」(UFB)を高濃度で化粧品に配合しさらに泡を長期間維持することのできる新技術と、尿中の細胞からiPS細胞を作りさらにiPS細胞から皮膚組織を作製することに成功した研究成果を発表する。
まず化粧品の感覚変容ツールの新知見について発表される論文は、「化粧品がもたらすある一つの感覚体験は、脳を通じて多感覚で感じる印象に影響しうるか?~従来の化粧品の役割を超えた、感覚変容ツールとしての新たな可能性~」(英文名:“Does the cosmetics timulation of brain regions involved in multiple senses amplify multisensory perception?~Beyond their traditional benefits,cosmetics as potential sensory transformation tools.~ ”)だ。
発表者は大石貴矢氏、岡部伊織氏、張優希氏、藤井恵氏、濵中祥弘氏、楊暁光氏、水越興治氏。大石氏が当日発表者となる。
化粧品は、顔の見た目を装うだけでなく、使うことで感覚を刺激し心地よさや高揚感を感じさせてくれる。ポーラ化成工業では、化粧品を使用した際のユーザー体験を全く新しいものにしたいと、魅力を「感じる」仕組みについて脳のメカニズムから紐解く研究を行った。
これまでの化粧品開発では、視覚に対しては「色」、触覚に対しては「滑らかさ」など、五感それぞれと対応する要素に着目してきた。また、「化粧品を使用することにより変化した肌の魅力」や、「化粧品そのものの触り心地の魅力」は言葉で表現されてきた。
では、その「魅力」は、どこで感じているのか。見たり触ったりして身体が受け取った情報は神経を介して脳に伝わり知覚される。さらに、その情報は別の脳部位に伝わり「認知」により価値づけされ、最終的に言葉になっていく。そこで、化粧品のユーザー体験をより高めるには、価値判断の根源となる脳内の「認知」の理解が必要と考え、研究を行った。
ポーラ化成工業の過去の研究から、脳のanterior prefrontal cortex(aPFC)という部位が顔を見て魅力を感じた時に活性化することが分かっている。この部位は嗅覚、聴覚で魅力を感じた時にも活性化することが知られているため、aPFCを活性化すると複数の感覚での魅力印象が同時に高められると考えた。
そこで、aPFCを磁気で刺激し活性化させたところ、視覚、触覚で魅力印象が高まることを発見した。これはaPFCが魅力認知の要である可能性を示している。また、触覚への刺激でaPFCを活性化できることも分かってきた。
将来的に化粧品の感触や香りでaPFCを活性化できれば、「化粧品は五感で感じる全ての日常体験をより魅力的に感じさせ、一人一人のWell-beingを高める“感覚変容ツール”になり得る」とポーラ化成工業は考えている。
次にUFBの新技術について発表される論文は、「刺激性の化学物質を皮膚に残さない、気体を活用した独自の洗浄技術“ウルトラファインバブルは未来の乳化技術になりえるか?”」(英文名:A unique gaseous solution for cleansing leaves no trace of irritating chemicals on the skin “Can Ultra-Fine-Bubble serve as a new means of cosmetic emulsification?”)
発表者はポーラ化成工業フロンティアリサーチセンターから小林一貴氏、増田孝明氏、大久保堅三郎氏、秦野衛氏、早崎拓登氏、仁王厚志氏、慶應義塾大学から寺坂宏一氏。小林氏が当日発表者となる。
洗顔料に含まれる洗浄成分は肌上にわずかに残り、敏感肌の人などには不快な刺激の原因となることがある。
そこでポーラ化成工業では、刺激性のない究極の洗浄成分として「空気」に着目。空気であれば、自然に消失し肌上に残らないため、刺激を引き起こす心配はいらない。特に、UFBにフォーカスし、世界初のUFB化粧品の実現を目指した。
UFBとは、髪の毛の1/700程度(直径約100ナノメートル)の超微細な泡を液体中に分散させたもので、少しずつ産業利用が始まっている。本研究では、UFBを化粧品中に配合するために必要な基礎技術の確立と、UFB化粧品の機能性の確認に成功した。
本研究により、化粧品に配合した高濃度UFBは油を水中に分散する能力に優れていることも示唆された。このメカニズムとして、UFBの空気が油を包み込んでいると考えられる。この性質をうまく活用すれば、空気による乳化、いわば「気相乳化」が可能になると期待できる。「乳化」は化粧品に欠かすことのできない技術であり、ポーラ化成工業では「気相乳化」を従来の乳化と双璧をなす次世代の乳化方法として確立していく考えだ。
ポーラ化成工業は今後、UFBおよび気相乳化の導入によりさまざまなニーズに応え、より多くの利用者が化粧品を楽しむことができる世界を目指していく。
最後にiPS細胞から皮膚組織を作製する研究について発表される論文は、「尿由来細胞から作製した”ミラースキン” 究極のテーラーメイド化粧品のための完全な皮膚のコピー」(英文名:“Mirror skin” generated from cells in one’s own urine: A perfect skin replica for the ultimate personalized cosmetics)だ。
発表者は吉澤美沙氏、横田絢氏、久下貴之氏、張優希氏、中野瑞穂氏、岩永知幸氏、ポーラ化成工業フロンティアリサーチセンターから望月麻友氏。岩永氏が当日発表者となる。
人間の皮膚は一人一人異なり、紫外線などの刺激に対する反応や老化の表れ方なども異なる。そこでポーラ化成工業では、一人一人の皮膚の個性に対応する「究極のテーラーメイド」化粧品を提供することを目指して、iPS細胞を用いてその人の皮膚を忠実に再現した培養組織(皮膚オルガノイド)の作製に取り組んできた。
本研究では、簡便かつ痛みを伴わずに回収可能な尿から単離した細胞からiPS細胞を作り、さらにiPS細胞を最適な環境で増殖・分化させ、皮膚組織と同様の構造を持つ皮膚オルガノイドに育て上げる手法の確立に成功した。
構築した皮膚オルガノイドは、既存の培養皮膚モデルに比べて実際の皮膚の構造を忠実に反映しているだけでなく、尿提供者(ドナー)の皮膚の特性を反映していることも確認できた。ポーラ化成工業は、本手法で作られる皮膚オルガノイドを、その人の皮膚を反映しているという意味を込めて「ミラースキン」と名付けた。
ミラースキンは、その人の皮膚で起きやすいトラブルの原因を突き止めたり、その人に適した有効成分を見出したりするなど、今後の研究開発において化粧品のパーソナライズ化の中心的技術となる。また、皮下脂肪、神経、毛包や脂腺などを再現できていることから、これらの皮膚の構造物を対象とした研究を飛躍的に進展させるツールとしても幅広い活用が期待できる。
ポーラ化成工業はミラースキンを皮膚科学分野のコア技術とし、今後も新技術の開発や技術活用に注力していく。