花王とアイスタイルは3月11日、ビューティー&ヘルス産業のサステナブルな発展のため、「皮脂RNAモニタリング」技術を核としたビジネス共創をめざす「RNA共創コンソーシアム」を共同設立。企業の垣根を超えて「作る」「売る」「選ぶ」の新基準を制定し、ビューティー&ヘルス産業全体で、サステナブルな消費サイクル実現に挑む。これに伴い同日、記者会見を開催した。

「皮脂RNAモニタリング」技術を提供する花王と、日本最大の美容プラットフォームである「@cosme」を運営するアイスタイルが理事となり、運営委員会を組織。共創パートナーとして、コーセー、マツキヨココカラ&カンパニー、キリンホールディングス、パーフェクト、ヘルスケアシステムズといった各業界を代表する企業を幹事社として迎える。

今後、同コンソーシアムでは、RNA情報を基準に、生活者にとってさらに満足度の高いパーソナルな商品・サービス選択が叶う仕組みの創出をめざす。同時に、需給バランスを整えることで、人にも環境にも負荷をかけないサステナブルな消費サイクルを実現することを目標に、活動を開始する。

人生100年時代と言われる中、健康で快適な生活を送りたいというニーズは高まっており、市場はそのための健康や美容に関するサービスや情報であふれているが、一方で、選択肢の多さゆえに「何が自分に合うのか」がわからず、悩む生活者も少なくない。このような時代背景を受け、ビューティー&ヘルス業界では、生活者が今の自分の状態を正しく知り、多くの選択肢の中から「自分のめざす姿に何が最も必要なのかを見極めるための基準」が必要という気運が高まっている。

一方、企業には、多様性を考慮した商品・サービスの提供やESG(環境、社会、ガバナンス)視点での経済活動が求められている。サービスを提供する企業がそれぞれ、豊富な選択肢の中から最短・最適な選択ができるような提案を行っていくことは、環境にも人にも負荷をかけない新たな市場の創造につながる。

「皮脂RNAモニタリング」は、あぶらとりフィルムで顔の皮脂を採取し、その皮脂からRNAを抽出して網羅的に分析する花王独自の解析技術。DNAが、その人固有の一生変化しない情報であるのに対し、RNAは、体調や食生活、運動、ストレス、紫外線といった環境要因によって日々変化するため、その時々の肌や体の状態を知るのに有用であると言える。花王はこれまでに、皮脂RNAにより、体や肌のさまざまな状態の推測ができること、乳幼児アトピー性皮膚炎やパーキンソン病を早期に判別できる可能性があることなどを研究成果として報告してきた。

花王とアイスタイルは、2022年から、アイスタイルが運営する「@cosme」サイトで承諾を得られた会員の皮脂RNAを収集して、似た皮脂RNA特徴を持つ人をグルーピングし、選ばれる化粧品の傾向を解析するという共同取り組みを進めてきた。

花王はこのグルーピングについて検討を進め、RNA発現の類似度に基づき2つの肌タイプが存在することを報告している。さらに花王は、両社の共同取り組みで得られた皮脂RNAと画像情報をもとに、これまで皮脂を直接顔から採取しなければ解析できなかった肌タイプ分類肌遺伝子モードを、顔写真から特定する技術も開発した。

このような、花王とアイスタイルによるこれまでの取り組みを通じて、RNA情報が商品選択のひとつの基準として有用である可能性が見いだされてきている。そこで両社は、「皮脂RNAモニタリング」技術を核とした、さまざまな企業とのビジネス共創をめざし、「RNA共創コンソーシアム」を立ち上げる。

同コンソーシアムでは、美容健康サービスの「作る」「売る」「選ぶ」ための新基準制定や標準化、ビジネスユースケースの実証、ビジネス連携支援等の活動を推進する。RNA情報を基準としたケアやサービスが社会に浸透することで、生活者にとってはさらに満足度の高い商品選びを叶えると同時に、美容、ヘルスケアをはじめとするさまざまな領域の企業においても、生活者の悩みに対応する新たなソリューション提案や、商品開発・サービス開発におけるイノベーションの推進につながることが期待される。

これらをビューティー&ヘルス業界全体で取り組むべく、今後、美容や健康・食といった幅広い業界から参画企業を募る。そして、各社の持つデータや研究知見を融合して顧客や産業の課題解決を促進し、新たな価値を創造することで、業界のサステナブルな発展を実現していく。

会見では、理事となる花王の西口徹取締役専務執行役員、アイスタイルの濱田健作上級執行役員CSO兼経営戦略室長、共創パートナーであるコーセーの原谷美典執行役員経営企画室長、マツキヨココカラ&カンパニーの松田崇取締役グループ営業企画統括副統括、キリンホールディングスの藤原大介執行役員ヘルスサイエンス研究所長、来賓として、経済産業省生物化学産業課生物多様性・生物兵器対策室の堀部敦子室長が出席。以下はそれぞれの発言要旨である。

花王・西口徹取締役専務執行役員

我々一人一人の持つDNAは生まれてから一生涯変わることがないのに対して、RNAはDNAの情報をもとに作られ、体調や環境によって、日々作られる量が変化していきます。

これまで花王では、皮膚を傷つけることなく、皮脂を採取するだけでRNAが解析可能であることを見いだし、解析技術を開発してまいりました。この常に変わりゆく体の変化を、遺伝子レベルでモニタリングできる技術、皮脂RNAモニタリング技術を活用して、生活者のウェルビーイングを追求することを目指し、共創コンソーシアムの立ち上げを本日発表させていただきます。特にビューティー、ヘルス&ビューティーの領域で、さまざまな実証実験をベースとした活動を行うことで、技術の更なる発展、参画企業を通した社会への提供価値向上を目指してまいります。共創コンソーシアムのロゴは、RNA解析時のヒートマップをシンボライズし、多くの生活者のデータや情報が集まることで、新たな真実にたどり着ける、共創という意味を表現しております。

ここでコンソーシアム設立に至った背景を少し説明させていただきます。今の市場を見たときに、一見、生活者のもとには非常に多くの選択肢があるように思います。しかしながら、選択肢が多すぎるがゆえに、自分に合うもの、自分に合う商品に出会うことは難しくなっているともいえます。このような市場の潮流を考えると、豊富な選択肢の中から、無理、無駄のない、自分に合う商品探しが、これからの大きなテーマとなります。今回我々は生活者が豊富な選択肢の中から自分に合ったもの、自分にとって価値のあるものを選び取れる世の中を目指して、皮脂RNAモニタリング技術を活用して、コンソーシアムの中で実証実験を進めていきます。すなわち、RNA技術は、研究の域を飛び出して、社会実装のフェーズに進みます。生活者の選び方が変わり、流通の売り方、メーカーの作り方も連動して変わっていく。その新基準を市場に生み出すことで、生活者の未来のウェルビーイングを追求しながら、無理なく無駄のないサステナブルな市場発展に貢献していくことを目指していきます。

本コンソーシアムは、アイスタイルさまとビジョンを共感したことから検討を開始しました。今回は、このビジョンに共感いただいたコーセーさま、マツキヨココカラ&カンパニーさま、キリンホールディングさま、また本日は登壇されておりませんか、ヘルスケアシステムズさま、パーフェクトさまを幹事企業に迎え、活動をスタートいたします。今後もこのビジョンに共鳴いただける、さまざまな企業さま、研究機関とともに、コンソーシアム活動を推進してまいります

アイスタイル・濱田健作上級執行役員CSO兼経営戦略室長

アイスタイルが運営する美容のプラットフォーム、アットコスメは口コミを中心としたメディアと、それらデータベースを活用したECサイト、店舗を運営しており、多くの美容に興味のある方々の顧客接点と、それらの行動・購買データをデータベース化しています。美容のプラットフォームを運営している中で、日々大事にしてることが化粧品と生活者との出会いをどう快適に安心して楽しく、納得して生活者の方々に感じてもらえるか、それを毎日考えていますが、やはり日々いろいろな情報技術の発達、消費者ニーズの多様化、国内外を含めて化粧品ブランドは毎年増えているかと思いますし、それに伴って情報量も爆発的に増えていると思います。それによって結果的に生活者は自分に合った化粧品を探すことが難しくなってきている、もしくはもう放棄してしまっているという方々もいるのかもしれません。そうした生活者の課題感をいろいろな取り組みを通して解決させていただきたいと思っています。

その中で、花王さんのRNAのお話を聞く機会があり、技術力とコンセプトに非常に共感し、このお話を受けさせていただくところの大きなきっかけです。そもそも私はRNAとDNAの違いすら最初わからず、それが二つのパターンにわかれていくことも、正直理解が追いついていませんでした。これは社会実装していく中で、生活者の方々が最初につまずくポイントではないか。生活者視点で日々の体験を作っているからこそ感じられる一つ一つの気づきがこの取り組みにも生かせると信じて、POC(概念実証:新しいアイデアや技術の実現可能性を検証すること)をさせていただくに至りました。これからこの技術を軸に多様な企業が参加することで生活者が満足していくという結果につながる。こういう世界を作っていきたいと思いを一にする皆さまとご一緒できることを大変誇りに思います」

コーセー・原谷美典執行役員経営企画室長

コーセーでは、中長期ビジョンとしてこれまでのビューティー、メイクやスキンケアだけではなく、より健康やキュア、ケアからキュアへと、医療の境界領域まで包含したいわゆるウェルビーイング領域まで提供価値を広げていきたいと考えております。

今回、そのような中で花王さまからRNA共創コンソーシアムのお声掛けをいただいた際に、体や肌の状況変化を反映できる可能性の高さに注目しました。もう一つは、今回登壇の皆さまをご覧になっておわかりいただけるように、ヘルス、ビューティーに関するメーカーから流通まで、業界をまたいで複数の企業が同じ場でコンソーシアムに参画をさせていただく中で、店頭を含む実証実験から得られたデータを皆で検討し、その中からいろいろな知見が得られると思っています。まさに総合的なウェルビーイングを高めることができるソリューションに繋がると期待しています。

そしてもう一つ、化粧品会社として今回の基本技術に一番興味を持っておりますのは、一つはこれまで我々肌タイプといいますとどうしても乾燥肌とかオイリー肌とか敏感肌、皆さん自分の経験を通じて感じてらっしゃる肌分類がありましたけども、それとは全く独立したRNAによる分析結果による分類ができるというのは、非常に画期的と考えています。よりきめ細かいタイプ別の対応が可能になる。これだけでも非常に大きな意義があると考えております。

もう一つは、これも皆さまがおっしゃっている通り、DNAとは異なり、コンディションや体調によって移ろうという点がカギで、一人一人のその人の、そのときの肌状態が把握できる、これも大きな魅力だと思っております。常に刻々と移ろう肌状態に合わせたカウンセリング、接客であり、もう一つはそういった肌状態に合わせた化粧品を作って提供するということまで視野に入れてこれから我々も一緒に頑張っていきたいと思っております。そういう意味で大変期待を持って今回参画をさせていただきました

マツキヨココカラ&カンパニー・松田崇取締役グループ営業企画統括副統括

今回の実証実験につきまして我々は流通、販売の立場ということで、最終的にお客さまが満足したかどうかといったところを、より数値的に検証する立場にある、非常に重要なポジションだと考えています。マツモトキヨシとココカラファインが統合して約3年目を迎えました。これまではマツモトキヨシ、ココカラファインそれぞれの看板で大きなシナジーを獲得してきましたが、今年からはマツキヨココカラとしてECやアプリの統合を皮切りに新たなデジタル上の統合会社としてのプラットフォームを構築してきました。

その中で、マツキヨココカラBというビューティーにまつわるデジタル情報のプラットフォームを創設しました。このプラットフォームではメイクシミュレーター、スキンアナライザーといった、お客さまが店頭にいらっしゃる前に試せる環境を作ってきましたが、今回お声がけいただいた技術はそれとは異なるアプローチで、これまでの量的な観点で的確なレコメンドにつなげていた最中に、新たにRNAを活用した新しいマッチングシステムという新しい軸を頂戴したと思っています。

お客さまが自分にとって最適な商品を選んでいただけることにチャレンジしていこうと考えていますし、ひいては我々に対するお客さまのLTVや、プロダクト自体のLTVを高めるといったところに資するかどうかといったところを、今回の活動を通しながら、確認していきたいと考えています

キリンホールディングス・藤原大介執行役員ヘルスサイエンス研究所長

キリンはお客さまに、家族、パートナーのように寄り添って、社会課題の解決と自社の経済的な価値を両立するCSV経営を推進することをうたっております。その実例として、人間のもともと持っている力を高めるということに注目し、国民が健康な日々を過ごせるように、免疫機能の維持に寄与するプラズマ乳酸菌の研究開発に力を入れてきました。同時に、この免疫ケアをする習慣を日本に定着させようということで、情報発信、啓発活動にも力を入れております。

このコンソーシアムでの取り組みでは、お客さまが商品を選ぶ際の選択肢を絞り込む、あるいは新たな基準を生み出す可能性があるのではないかと考えています。これまでキリンでも健康機能性素材の開発や商品を提供することだけではなく、健康状態の見える化のため、例えば腸内細菌を調べ、不足している栄養素は何かを知るなどの取り組みを行っています。

こうした見える化の技術は、今後も継続して取り組まなければいけないと考えており、花王さまのRNAモニタリング技術には非常に強い興味があり、参画を表明いたしました。我々は社外の皆さまと共創を積極的に進めており、昨年も花王さまと一緒に内臓脂肪と免疫に関係があるということを明らかにしておりますし、今回、どのような商品、サービスを共創できるのかについては、非常に私自身もわくわくしておりますし、本日参画を表明されました各社さまと、垣根を超えて共有をさせていただき、一層お客さまに貢献する力を高めてまいりたいと考えております

経済産業省生物化学産業課生物多様性・生物兵器対策室・堀部敦子室長

最近は製品それぞれに対する個人の評価が極めてはやく世の中に広がっていのを実感しているところです。そういう評価を通じて、人気や話題を得ているようなものを試してみたいというのは当然のことかもしれないなと思います。

一方で、私も経験がありますが、実際に買って使ってみるとやっぱり違ったなと思うことが少なくないというのが現状かなと感じています。皆さまのご発言にもありましたが、自分に合ったものを使いたいのに、自分が何を選んでいいのか、多くの製品が流通する時代になればなるほど悩むということがあるのではないでしょうか。

このような中で、自分のRNAから得られる情報というのを科学的なエビデンスの一つとして自分に合った製品を選ぶ参考になるのであれば、より自分にしっくりくる製品を選ぶことができるのではないかと思っています。そういう製品を使い続けていただければ、自分の思い描く状態に近づくかもしれませんし、結果としてより健康的で快適な生活に繋がるということであれば、ウェルビーイングの実現にも繋がるものではないかと思います。

もう一つ、今日はあまり言及されてないかもしれませんが、自分にとって合わない製品を回避するということを考えますと、これまで合わないことをもって捨てられてきた化粧品の廃棄というのを減らすという効果も期待できるのではないかと思っています。今はSDGsという言葉を知らない方がいらっしゃらないという世の中で、つくる責任、つかう責任を果たして地球環境にも優しい経済活動に大きく貢献していただければと思っています。

それから、今回お集まりのさまざまなセクターの企業の皆さまがコンソーシアムという形でこの取り組みを進められることにも大きな価値を感じているところです。化粧品産業というのはご存知の通り多くのセクターの連携で成り立っております。多くの事業者の皆さまが参画してより大きな連携の輪が広がれば、個別のセクターでは気づかないような新たな発見であったり、それを基にした新たな製品・サービスの開発につながり、化粧品関連の市場がますます活性化するのではないかと思っています。経済産業省におきましても、2021年に産学官連携で化粧品産業ビジョンを策定しておりますが、このビジョンの中で化粧品産業の将来として、日本の先端技術と文化に基づいたジャパンビューティーを世界に発信し、人々の幸せ、ウェルビーイングと世界のサステナビリティに貢献する産業へということをうたっております。

今回のコンソーシアムというのはまさにRNA型による肌タイプ分類とeコマースという販売プラットフォーム、まさに先端技術に基づいて、ウェルビーイングとサステナビリティに貢献するという意味において、きわめて時期を得たものではないかというふうに考えています。ただこういう新たなサービスを進める場合には課題というのも出てくると思います。例えばこのコンソーシアムで活動する中で検討されると聞いておりますけれども、RNAに関するデータ、個人の情報をどう保護していくのかということに関してはやはりこういう取り組みを進める中で慎重に検討いただければと思っています。

とはいえ、RNA情報以外にも肌に関する情報、皆さん同意を得た上でしっかり集積をしていただいて、これらを適切な目的で活用いただければテーラーメイドコスメティックスということに繋がっていって、それがまた新たな産業になるのではないかと期待をしており、経済産業省といたしましてもこのような社会の変化、新たな需要を適切に捉えて、皆さまと一緒に日本の化粧品産業を中心とする産業界をさらに盛り上げていければと思っておりますし、将来的にはこのような取り組みが日本を飛び出して、世界でも活用していただければなと思っています。最後になりましたけれどもこのコンソーシアムの着実な発展を心から祈念しています