小誌が香りを特集するのは珍しい。これほど多くの企業を一度に取り上げたことは、類例がないのではないか。嗜好品の香りを売り込むために、各社は個対応にしのぎを削っている。対面カウンセリング、AI解析、香りの言語化などアプローチはさまざまで、どれもユニークな体験だと思う。百貨店の香水売り場は敷居が高いと敬遠していた潜在層を取り込み、香り市場の裾野は広がっているのだろう。ただ、子育て世代の私にはモヤモヤ感もある。私にも妻にも好みの香りはあるけれど、いい匂い! くさい! という娘(もうすぐ5歳)の鶴の一声で、その商品を使えるか、戸棚の奥にしまうかが決まってしまう。9月に1歳になった息子は一段と動きが活発になり、もうすぐ歩き出すだろう。娘のように明確に意思を示すようになれば、それこそ香りの意思決定者がもう一人増えることになる。両親への権限委譲はまずない。パーソナル化は世の流れで、私も嬉しく思う場面が多い。でも、ファミリーで選べる仕組みも作ってくれないか。自分好みの香りを身にまとい、娘からNGをくらうよりは、家族公認の香りを数種類、持っていたいと思う。パーソナル化が時流のいま、これは贅沢な悩みだろうか。

月刊『国際商業』2023年12月号掲載