ファンケルは、個人の「体力」を見える化する指標として、従来から用いられてきた「無酸素性作業閾値(Anaerobic Threshold:以下「AT」)」を簡便に推定できる技術に関する研究を進めている。このたび、酸素飽和度(以下「SpO2」)を用いた「酸素飽和度性作業閾値(SpO2 Threshold:以下「ST」)」を利用し、「AT」を簡便に推定する方法を開発。この「ST」は「SpO2」を用いた測定方法であり、個人の「体力の指標」にすることができる世界初の技術となる。同技術によって個人の「体力」に合った最適な運動強度を簡便かつ正確に推定することができるため、医療分野、スポーツ分野以外にも多くの応用が期待される。なお、同技術については特許を取得している。

「AT」は軽い運動から徐々に運動負荷(=運動強度)を高めて行った際に「有酸素運動」から「無酸素運動」に切り替わり始める転換点であり、個人の「体力」の指標となる。またAT時点で運動することは、その個人に合った最適な運動強度となるため、リハビリテーション治療などの医療分野やスポーツ分野において効率的な体力づくりに応用されている(図1)。

「AT」の測定には、「呼気ガス分析」を用いた検査法と、「血中乳酸濃度」を用いた方法がある。しかし、いずれの方法も特殊な測定機器や設備、または採血による分析を必要とするため、病院や研究機関などの特定施設での測定に限られていた。また被測定者の体力的な負担を必要とするなど、従来の測定方法は簡便にできないという「不」があった。「体力」は高い人ほど健康度や生存率、運動パフォーマンスレベルが高いことが知られている。「体力」を見える化することで、個人に最適な運動強度で効率的な体力づくりを行うことが可能になる。

同技術は、特殊機器や採血を必要とせず、簡便に被測定者の負担がない「AT」を推定できるため、医療分野やスポーツ分野のみならず、美容分野などにも幅広く応用可能な技術開発であると考えられる。

また、広島大学病院リハビリテーション科の三上幸夫教授の協力を得て、本技術を用いてリハビリテーション治療への応用に関する研究を行った。その成果を、2022年11月4日から6日に岡山市で開催された「第6回日本リハビリテーション医学会秋季学術集会」にて発表した。

<研究方法と結果>
有酸素運動から無酸素運動に転換される「AT」時の運動強度は、体内の酸素量変化が関連している。このことから、指を挟むだけで簡便に体内の酸素量を測定できる「SpO2」を用いて「AT」の推定が可能であるとした仮説を検証した。

健常な成人12人を対象とし、エルゴメーターで運動負荷をかけながら、「AT」は呼気ガス分析を用い、「ST」はパルスオキシメーターを用い、「AT」と「ST」の判定に必要なデータを同時に測定した(写真)。その結果、「ST」は「AT」と相関することが確認された(図2)。この結果から、「SpO2」と「脈拍」の測定により算出した「ST」が、「AT」の代用にできることを見いだし、特殊な機器や設備、または採血が必要であった「AT」を、「SpO2」と「脈拍」の測定により簡便かつ正確に算出できる方法として確認した。

広島大学病院リハビリテーション科(三上幸夫教授)の協力のもと、疾病者の最適な運動強度を確認することで、効果的なリハビリテーション治療への応用について研究を行った。

対象者は悪性リンパ腫に対して化学療法中の73歳男性(以下症例A)と肝細胞癌に対する腹腔鏡腫瘍切除術後9日目の69歳男性(以下症例B)の2症例とした。2症例とも呼気ガス分析法で得られる「AT」と、今回開発した「ST」を同時に算出した結果、図3に示す通り症例Aの「AT」時の心拍数は113拍/分であり、「ST」時の脈拍数は107拍/分であった。また症例Bは「AT」時の心拍数が131拍/分、「ST」時の脈拍数が126拍/分であり、2症例とも「AT」時の心拍数と「ST」時の脈拍数は近似値であった。

このように簡便な方法で「ST」を算出することで「AT」を推定でき、最適な運動強度を決定することができる。がん患者の中等度強度の身体活動は、再発率や死亡率を低下させる報告があるため、この技術は疾患者の効果的なリハビリテーション治療に寄与できることが示唆され、医療への応用が期待される。

今後は、広島大学病院リハビリテーション科との協働をより加速させ、リハビリテーション治療への応用に役立てる。また簡便な測定で「AT」を推定することが可能になり、最適な運動強度を決定できることから、医療分野だけでなくアスリートのパフォーマンス強化などのスポーツ分野や、ダイエットなどの美容分野にも、今後は応用範囲を広げる考えだ。