資生堂は、国際医療福祉大学医学部形成外科学の松﨑恭一主任教授と、自治医科大学、生理学研究所の共同研究により、肌に圧力を加えることは、幹細胞リザーバーに貯蔵されている幹細胞の増殖を促し、肌を再生する可能性を明らかにした。見た目の老化の改善に繋がるこの知見を活用し、美容法やサービスの開発を進めていく。

加齢と共に肌は弾力を失い、シワやたるみ等の見た目の老化が進む。これは、肌の弾力をコントロールする細胞(真皮の線維芽細胞)が加齢と共に衰えるためと考えられている。これまで本共同研究では、肌内部の皮脂腺の周囲に、この線維芽細胞の基となる幹細胞が貯えられていることを発見し、「幹細胞リザーバー」と名付けた。この肌再生の切り札となる幹細胞リザーバーをターゲットとして、有用な薬剤の開発を進めてきた。加えて、資生堂が長年培ってきた美容法にも肌再生に繋がる力があると考え、研究を進めた。

美容法は「押す」「叩く」「捻る」「伸ばす」等、様々な要素とその組み合わせからできている。美容法の肌への有用性は知られているが、どの要素が何に対して作用するのか等、詳細なメカニズムは解明されていなかった。これを明らかにすることは、より高い効果を持つ美容法の開発に繋がる。

そこで皮膚を培養し(器官培養)、これに美容法の各要素を模倣した様々な刺激を加え、その効果を観察。その結果、皮膚に圧力を加えることで、幹細胞リザーバーに存在する幹細胞(幹細胞マーカー陽性の細胞)が増殖することが確認された(図1)。そこで、美容法の中から「圧力」の持つ力に着目し、さらに研究を進めた。

図1

次に、圧力で増加した細胞が、実際に真皮中で機能し得るのかを検討。真皮の細胞が良好な状態で機能するには、細胞同士が繋がり、ネットワークを構築することが重要となる。そのため、このネットワークを観察できる「デジタル3DスキンTM」技術で、3次元的に細胞の状態を観察した。

その結果、圧力を加えた皮膚では、増殖した細胞が互いに繋がり、ネットワークを構築することが確認された。このことから、圧力は幹細胞の増殖を促し、それが機能する状態へと導くことが示された。

さらに、圧力により増殖してネットワークを構築した細胞が、真皮を再生する可能性を検討した。加齢により肌のコラーゲンが著しく減少することで、肌の弾力が低下する。その一方で、ネットワークを構築した細胞は、コラーゲンを産生。これにより真皮は再び弾力を取り戻すことが可能となる。

そこで、圧力を加えた皮膚のコラーゲンを観察したところ、新たにコラーゲンが生み出されていることが確認された(図2)。そのため、圧力は真皮の再生を誘導すると考えられた。

図2

今回の一連の研究から、圧力は幹細胞リザーバーからの幹細胞の増殖を促し、これが細胞のネットワークを構築することで、コラーゲンを生み出し、肌を再生すると考えられる(図3)。これは同時に、美容法が肌の再生に繋がる新たな可能性を示したと言える。

図3

資生堂では、この知見を活用し、美容法や美容器具をはじめ、様々なサービスの開発を進めていく考えだ。

なお、本研究成果の一部は、化粧品技術者の世界大会「国際化粧品技術者会連盟ミュンヘン大会2018(IFSCC Congress 2018)」で口頭発表し、最優秀賞を受賞している。