「商品価値の流通」を「グローバル視点」で変える。スタートアップ企業「Payke(ペイク)」のコンセプトは明快だ。同社の創業者で、「Forbes Asia」が各分野で活躍中の30歳未満の人材を選出する「Forbes 30 Under 30 Asia 2019」に選ばれた古田奎輔CEOにビジネスの現状と今後の発展性について聞いた。

コンペティターは存在せず伸び代は十分

――商品価値の流通を変えるとは、どういうことでしょうか。

古田 現在、消費者が購買を決定する時の情報は、分散しすぎています。例えば、小売店の店頭では、パッケージとプライスカードしか判断材料がありません。情報を求める消費者はネットにアクセスし、SNSの口コミなどを確認して、それらの情報を掛け合わせて購買を決めています。商品の価値はコンテンツで伝わります。これが現代の消費トレンドですが、商品にまつわるコンテンツは、十分に掘り起こされておらず、特に開発秘話などの優良コンテンツはメーカーに眠っているのが現状です。データベース化もされていないので、機会ロスを招いているのは否めません。人口減の日本は、グローバルの需要を取り込まなければ生き残れませんが、コンテンツの多言語化も対応が遅いです。我々は、これらのボトルネックを解消し、商品が持つ価値を消費者に伝え、購入の確度を上げることに挑んでいるのです。

――具体的には。

古田「Payke」は、バーコードを元に商品の情報や魅力を多言語で訪日客に伝えるインバウンド対策サービスです。世界144カ国以上で採用される国際規格のバーコードを活用して、日本語が読めない訪日客がスマートフォン・タブレットでバーコードをスキャンすると、多言語で商品の使い方、成分、価値などの情報を文章や画像・動画で訴求できる仕組みです。店舗内に専用端末「Paykeタブレット」を設置すれば、スマホなしでも利用可能です。「Payke」への情報登録は日本語のみ入力すれば他の言語に自動翻訳が可能で、手動で翻訳を行うこともできるんです。

バーコード一つで商品が多言語対応

――利用者数は。

古田 商品情報の登録数について、我々は「価値のデータベース(DB)化」と呼んでいますが、19年5月現在、約33万の商品情報を多言語で蓄積しています。特に、アジアでのニーズが多い化粧品のDBが豊富です。DBの利用者数は約370万人で、その内、95%が外国人です。国・地域別でいうと、台湾が約35%、香港が約20%。そのあとは、15%のタイ、5%のベトナムと韓国が続いています。中国本土は3%となっています。

――化粧品需要が旺盛な中国本土の比率が低い。その理由は。

古田 中国独自のネット環境に対応できる仕組みづくりが必要だったので、「Payke」のローンチは15年11月でしたが、中国本土でのサービス開始は18年12月になりました。利用者は、北京、上海、広州など沿岸部にある大都市だけでなく、成都、重慶、四川などの内陸都市にも増えており、順調だと思っています。今後、国・地域別の比率で台湾・香港に並ぶようにしていきたいです。

――「Payke」の導入で、購入の確率は上がっていますか。

古田「Payke」の特徴は、いま店頭にいる消費者がユーザーである点です。我々は、商品の最後のプレゼンチャンスを提供し、コンバージョンレートを上げるツールだと自負しています。小売店のPOSデータを把握できないので、購入率を正確に測るのは難しいですが、ただ、協力店舗を募って、1カ月間、POSデータと「Payke」のスキャンデータを掛け合わせて分析したところ、「Payke」を使用した外国人は、使用しなかった外国人よりも、単価と購入数が高いことが確認できました。最大で34%程度の差が生じていて、想像以上の成果で、手応えはあります。


ユーザー言語に合わせた商品紹介

――さらに購入率アップは可能でしょうか。

古田 伸び代は十分にあります。というのは、商品情報が響くのは、顧客属性によって全く異なるからです。同じ商品でも、主婦、就労男性、学生では、購入の決め手になる情報は異なりますが、「Payke」は個人のスキャンデータを保有していることから、それをディープラーニングすることで、顧客属性に適した商品情報の出し方を変えられるのではないかと考えています。現在はデータの蓄積を始めている段階ですが、近い将来、パーソナライズしたサービスを多くの企業に提供できると思います。

――ビッグデータ活用が成長の鍵だ、と。

古田 一部の企業に対してコンサルティング・サービスも提供しています。例えば、ビッグデータを解析することで、商品に興味を持った外国人の性別、年齢、場所などがわかります。当然、競合品の消費者の興味度合いを可視化して比較を行い、プロモーション戦略に活かすことも可能です。さらにいうと、自社製品の国内プロモーションでは20代をターゲットにしているが、外国人の反応は40代が多い場合、日本と海外でプロモーションのコンテンツを変えるべきだ、と我々は自信を持ってアドバイスできます。

――「Payke」は、どのように発展していくのでしょうか。

古田 二つあります。まず、一つ目は消費者が購入の意思決定をする瞬間に、どれだけ「Payke」が介入できるかです。二つ目は、購入率を高められる優良コンテンツの保有数を増やすことです。我々は、技術開発企業ではありません。バーコードは世界共通規格で、あらゆる商品に貼付されており、既存の商品物流網に、無形の情報を載せられるから採用しただけなのです。将来的には新しい技術を取り入れ、例えば、見ただけ、触れただけで商品の価値が伝わる仕組みをつくっていくことができれば、「Payke」は、日常の消費行動に溶け込むことができるはずです。

――コンペティターはいますか。

古田 国内にも、海外にもいません。我々の強みは、商品のコンテンツが多言語で集まるプラットフォームを提供していることです。20年の東京五輪までに、この分野のリーディングカンパニーになって、その後は、グローバル化を加速していきたいです。例えば、韓国に足を運び、韓流コスメを買っている日本女性にソウル・明洞で「Payke」を使ってもらう。また、中国人観光客が一番訪れる国のタイで「Payke」を使ってもらうというように、日本を軸にするのではなく、世界中の消費者をメッシュのように囲い込むことが、「Payke」にはできると信じています。