第一三共ヘルスケアは、皮膚細胞の老化による慢性炎症が肌表面の細かい凹凸に与える影響を明らかにした。肌表面に細かい凹凸ができることで、肌がくすみ、年齢を感じさせることが考えられる。この研究成果を応用することで、若々しい印象を保つエイジングケア製品の開発が期待できる。今後も細胞老化によって生じる肌トラブルの解明や慢性炎症による影響について、さらに研究を進めていく。なお、今回の研究成果は、2025年6月13~15日に開催された日本抗加齢医学会総会にて発表した。

また同研究での「肌表面の凹凸」とは、肌表面を構成する表皮の最外層である角層に乱れが生じることで肌に細かいくぼみが生じている状態を指す。

同社では、皮膚の老化状態を研究する過程で、加齢に伴い肌表面の細かい凹凸が増加していくことを見いだしている。また、同社独自の研究成果において、高齢の人由来の皮膚細胞(線維芽細胞)は、炎症性サイトカインやコラーゲンなどを分解する酵素を分泌し、皮膚の真皮において慢性炎症状態を引き起こすことを確認している。このように慢性炎症によって老化細胞が周囲の細胞にも影響する現象を「SASP」というが、SASPによって放出される炎症性サイトカインが周囲に及ぼす影響は十分に明らかになっていなかった。そこでこのたび、皮膚真皮の細胞老化から生じる慢性炎症状態が、肌表面の細かい凹凸の増加にも影響する可能性があると考え、その解明のため、老化した真皮の線維芽細胞が肌表面を構成する表皮細胞に与える影響の確認と、慢性炎症を引き起こすSASP因子との関与について検証を行った。

皮膚では、表皮層と真皮層が層を形成しており、それぞれ表皮細胞、線維芽細胞がその層を構成している。これら2種の細胞の相互影響を直接的に検討するため、老化レベルの異なる線維芽細胞を用いてクロストーク実験(3次元的な構造を持つ表皮モデル細胞と真皮をつくる線維芽細胞を、透過膜を隔てて同じ培養液中で培養する実験)を行った。また、その後の表皮層について、構造によって組織を染め分けるHE染色によって識別を行い評価した。

(1)老化した線維芽細胞が肌表面を構成する表皮細胞に与える影響の確認

正常な線維芽細胞(DF)と老化誘導した線維芽細胞(老化モデル)を用いて共培養するクロストーク実験を行い、HE染色により観察した結果、老化モデルの線維芽細胞と共に培養した表皮モデルでは角層を含めた表皮層が厚くなり、全体として凹凸が増加している様子が認められた(図1)(図2)。

図1:HE染色像の代表的画像

図2:表皮層の厚みを、バーチャル画像ソフトOlyVIAを用いて1モデル当たり5点の測定結果を平均して示した。

また、老化モデルの線維芽細胞においては、表皮における角層の構成因子であるFLGに加え、角層成熟過程に関わる酵素であるKLK5やKLK7の遺伝子発現が増加することを示した(図3)。これらの増加が表皮細胞の適切な成熟を乱し、肌表面の細かい凹凸の要因になることが推察される。

(2)慢性炎症を引き起こすSASP因子の関与についての検討

前述(1)で確認された現象について、老化した線維芽細胞が分泌するSASP因子が影響していると仮説を立て、検証を行った。代表的なSASP因子であるTNFαおよびIL-6の中和抗体(機能を抑制する物質)を用いて、老化モデルの線維芽細胞に添加してクロストーク実験を行うことで、図3で指標とした角層に関連する遺伝子の発現レベルに影響を与えるか評価した。結果、SASP因子の中和抗体により角質剥離酵素KLK7や炎症性サイトカインの1種であるIL-1βの発現上昇が有意に抑制されることを見いだした(図4)。このことから、老化した線維芽細胞が分泌するSASP因子が表皮の遺伝子発現に影響を与えていることが示された。

同研究により、老化した線維芽細胞が表皮層の厚みを増し、表皮細胞の角層への成熟過程を乱すことで肌表面の凹凸を引き起こすことが明らかになった。また、加齢に伴い線維芽細胞が老化することで放出されるSASP因子が、表皮細胞の成熟と正常な角層の形成過程に影響を及ぼすことが示唆された。これらの結果から、老化した真皮の線維芽細胞による慢性炎症(SASP因子の放出)は、表皮の健常な恒常性維持のバランスを崩し、角層肥厚に伴ってそれらを剥離させようとすることから、肌表面の細かい凹凸を生み出してしまう可能性が考えられる。すなわち、加齢に伴う皮膚の慢性炎症を抑えることで、肌表面の細かい凹凸の増加を予防することが期待できる。第一三共ヘルスケアは今後、同研究を製品開発に応用し、肌環境を整え、QOL(生活の質)向上につながる新しいソリューションの提供を目指していく考えだ。