クラシエ(ホームプロダクツカンパニー)は、洗顔クレンジングやボディソープといった洗浄製剤において皮膚洗浄後の肌のキメ改善に効果のある「保水コンプレックス」の新規開発を行った。

従来、肌のキメの評価手法は、皮溝の太さ・深さや皮丘の細かさ・形状などの目視評価や、レプリカを採取する方法があった。今回、社会基盤工学分野において、コンクリート表面のひび割れ等各種画像特徴の検出・分析で活用されているTFC(Target and non-target image Feature area Classification algorithm、対象画像特徴&非対象画像特徴領域内分類)アルゴリズムを応用することにより、従来技術では評価できなかった洗浄後の微細な肌変化を分単位で捉えられるようになった。

同評価方法を用いて、洗浄後の肌のキメ改善に有効な成分とその組み合わせを探索した結果、三つの保湿成分からなる「保水コンプレックス」を開発することに成功。洗浄製剤であっても、「保水コンプレックス」を配合したことで洗浄後の肌の保水力が向上し、肌のキメ改善の効果を得られた。そして、それらを応用して、キメ改善を叶え、くすみをケアして輝く肌に導くことができる洗顔・クレンジングの製品化を実現した。

10~60代の女性3614名を対象としたWEBアンケートを実施したところ、年代が上がるにつれてくすみ悩みが上昇することが分かった。また、くすみに対して現在やっているケア・改善したいケアに「洗顔」を選んでいる割合も高く、「洗顔でくすみケア」は親和性が高いと考えられた。

肌表面に皮溝と皮丘が連続して並んでいるキメは、肌状態の評価において重要な指標であり、キメが細かく等間隔に揃っていると肌が美しく見える。一方で、肌のキメが乱れていると、肌が暗くくすんで見える。これまで、皮膚洗浄によるくすみケアは古い角質除去によるものと一般的に考えられていたが、皮膚洗浄により肌のキメを整えることで、相乗的に肌のくすみをケアすることができると考えた。そこで、肌のキメを改善する成分の探索を行い、洗顔・クレンジングに応用することを目的に研究に着手した。

肌のキメの改善には保湿が有効であることが知られているが、皮膚洗浄後はラメラ構造が乱れ急激に水分が奪われるため、肌のキメも乱れてしまう。同研究では、加齢によりくすんだ肌の保水力を上げることで、キメを整える洗浄アプローチに着手した。官能評価において、洗浄後でも保水実感のある多価アルコールや糖類などから候補成分を選定し、洗浄前後での角質水分量とTEWL(経皮水分蒸散量)を測定した。その結果、ポリエチレングリコール(PEG-20)、ラフィノース、ジプロピレングリコール(DPG)の3成分の組み合わせ「保水コンプレックス」により、皮膚洗浄後であっても角質水分量上昇とTEWL低下が確認された(図1)。

図1:「洗浄前を100としたときの角質水分量とTEWL」精製水と比較して保水コンプレックスを配合した水溶液において、皮膚洗浄後であっても角質水分量上昇とTEWL低下が確認された。

PEG-20とラフィノースは、皮膚洗浄後でも肌表面にベール状に残り、水分を留める効果が期待できる。また、DPGは角質細胞中の天然保湿因子(NMF)の溶出を防ぐことができる(図2)。

図2:保水コンプレックスの作用機構

肌のキメの評価はこれまで目視評価が主流だったが、皮溝の深さや皮丘のふっくら感といった深さ方向に対する評価は不十分だった。TFCアルゴリズムを応用することで深さ情報が得られるため、肌の表面形態の詳細な評価が可能となった。

これまで、類似の技術としてエンボス効果と錯視を利用して凹凸を強調・鮮鋭化するVIS(Visual illusion based-Image feature enhancement System、錯視誘発画像特徴強調・判読支援システム)を用いてリアルタイムでシワの動きを評価してきていたが、深さ情報を反映することが難しいという課題があった。TFCアルゴリズムではリアルタイムでの解析はできないものの、準リアルタイムで相対的な深さ情報が得られ、わずかな差も可視化できるという優位性があるため、肌のキメの変化を観察するのに適している。

同研究では、マイクロスコープで撮影した肌のキメをTFCアルゴリズムで処理し、キメの深さの度合いを6段階に分類し、皮溝の深い部分は黄色に、皮丘のふっくらした部分は赤色に色分け表示する手法を用い、洗浄後の肌のキメを評価することとした。

「保水コンプレックス」を配合した製剤を開発し、洗浄前後の肌のキメをマイクロスコープで撮影し、TFCアルゴリズムによりランク付けしたところ、洗浄前ではキメが流れていたのに対し、洗浄後ではキメが細かくなり、またはっきりと皮丘と皮溝が識別できるようになった(図3)。

図3:「『保水コンプレックス』(PEG-20、ラフィノース、DPG)配合製品での洗浄前後のキメ画像」洗浄前と比較して洗浄後ではキメがはっきりと識別できる。

洗浄によって古い角質が除去されたこと、また、皮膚洗浄後でも保湿効果が確認されている「保水コンプレックス」を配合したことで、洗浄前よりも肌のキメが改善されたと推察された。従来、キメ改善には保湿剤の塗布といったスキンケア製剤によるアプローチが一般的であったが、洗浄剤によってキメを改善することができるようになり、肌の毎日の手入れを簡便により美しく保つ手助けができると考えられる。

今回の研究成果については、2025年秋発売予定の洗浄製品に応用する予定だ。

TFCアルゴリズムは、電磁波反射率に基づいて、検出したひび割れ領域内やテクスチャ特徴領域内の画像特徴を分類する。分類クラスを電磁波反射率の大きさ順に可視化することによって、深さ情報(表面部または深部)を間接的に分析することができる。これらにより、ひび割れや表面状態の確認を可能とする技術で、ひび割れの深さの違いや表面のざらつき度合いを色分け表示することができる。本技術は、教師データを不要とし、画像データを入力するだけで「画像特徴領域内外分類画像(TFC画像:Target and non-target image Feature area Classification image)」を出力可能。

VIS&TFCシステムVer.3は、東京理科大学(創域理工学部・社会基盤工学科・地球環境工学研究室〈小島研〉)にて開発され、同大学が著作権等を有するコンピュータプログラム。関連情報は以下より参照できる。

東京理科大学産学連携機構: https://www.tus.ac.jp/ura/20240902-2/