ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業は、タンパク質分解酵素の複合体である「プロテアソーム」の働きが肌の透明感に関わる可能性を発見した。皮膚は表皮、真皮、皮下組織の三層構造をしているが、なかでも表面に位置する表皮は肌の水分保持やシミ・くすみなどの色調と深く関係する。乾燥やシミ・くすみといった肌悩みの一因として、表皮細胞の働きの低下が関係していると考えられている。

プロテアソームは、細胞の中で不要になったタンパク質を取り込み分解する酵素の複合体だ。プロテアソーム活性が低下すると細胞分裂をはじめとした細胞の基本的な働きが滞るなど、さまざまな悪影響を及ぼす。

同社のこれまでの研究では、表皮細胞でプロテアソーム活性が低下すると、表皮自身の重要な働きである水分を保持する働きが弱ってしまうことが分かっている(図1)。

一方、表皮細胞は表皮の下層にいる色素細胞(メラノサイト)に指令を与える因子を分泌する役割も担っている。しかし、これに対するプロテアソームの影響は分かっていなかった。そこで同研究では、表皮細胞のプロテアソーム活性がメラノサイト刺激因子の産生に及ぼす影響を調べた。細胞実験の結果、表皮細胞でプロテアソーム活性が落ちるとアドレノメジュリン(ADM)というメラノサイト刺激因子の遺伝子発現が活発になることが判明した。

実際にプロテアソーム活性が低下した表皮細胞の分泌物をメラノサイトに与えると、黒っぽくなり触手を伸ばす様子が観察された(図2)。

このことは、メラノサイトがメラニン色素をたくさん作り、周りの細胞に受け渡す準備をしていることを示している。つまり表皮のプロテアソーム活性低下は、シミやくすみにも影響すると考えられる。

同研究により、表皮におけるプロテアソームの重要性がますます高くなった。これまでの皮膚のプロテアソーム研究では、すでに真皮や皮下組織でもプロテアソーム活性低下が弾力低下やたるみなどの肌悩みにつながる可能性が示されている(図1)。これらの知見を総合すると、表皮・真皮・皮下組織それぞれの細胞のプロテアソーム活性が高いと、シミやくすみをはじめさまざまな肌悩み改善へつながると期待される。

プロテアソームとは細胞の中に存在するタンパク質分解酵素複合体の一つだ。不要になったタンパク質にユビキチンという目印が付くと、プロテアソームがユビキチンを認識してそのタンパク質を選択的に内部に取り込み、分解する(図3)。

タンパク質が分解されて生じるアミノ酸は生体内で再利用される。この働きが鈍り不要なタンパク質が溜まってしまうと、細胞増殖やタンパク質の産生など、細胞にとって基本的な働きが滞るといった、さまざまな悪影響を及ぼす。同社では、表皮細胞、真皮線維芽細胞、そして皮下組織の腱細胞のプロテアソーム活性を高める植物エキスを見出した。

ADMはもともと血圧に関わる作用を持つ因子として知られていたが、同社の研究によりメラノサイトを刺激し、活性化させる作用も持つことが明らかにされた。皮膚ではADMは表皮細胞によって分泌される。ADMを受け取ったメラノサイトはメラニン色素を活発に産生し(図4)、表皮細胞にメラニンを受け渡すための触手の本数を増やす(図5)。同研究成果は、化粧品技術の国際学会のポスター発表部門で最優秀賞を受賞した。

表皮細胞において、プロテアソーム活性が低下すると、メラノサイト刺激因子ADMの遺伝子発現量が増加することが確認された(図6)。これまでの研究により、表皮細胞のプロテアソーム活性が低下すると皮膚の乾燥につながる可能性が報告されていたが(図1)、新たに皮膚のシミやくすみにも影響している可能性が示唆された。