タカラベルモントの化粧品研究開発部は、超硫黄分子がオルト様コルテックスと同様の領域に分布し、ブラックメデュラに豊富に含まれることを確認した。このことから、超硫黄分子が髪のしなやかさや、くせなどの髪質に寄与する可能性が考えられ、毛髪にとって新たな結合ともいえる超硫黄分子を使った、髪質改善方法の開発が期待できる。

本研究は、2024年11月18~20日に兵庫県神戸市の神戸国際会議場で開催された「第2回日本化粧品技術者会 学術大会」ならびに、25年2月7日に東京都文京区の東京ガーデンパレスで開催された「第15回毛髪科学研究発表会」において発表した。「第2回日本化粧品技術者会 学術大会」では、ポスター発表TOP3として評価をされた。大会での発表内容は、「毛髪における超硫黄分子の局在および硫黄導入による影響」。河内佑己研究員らが発表した。

超硫黄分子は、ジスルフィド結合やチオール基に、さらに複数の硫黄原子が直鎖状に結合した構造を有する物質の総称。生体内では抗酸化、細胞保護、抗炎症、感染防御など様々なはたらきが発見されており、昨年毛髪内でもその存在が確認された。

超硫黄分子はキューティクルに多く存在し、熱や紫外線、ヘアカラーなどの酸化ダメージによって減少するが、外部から導入することで含有量を高めることができる。導入を施した毛髪には、超硫黄分子の持つ高い抗酸化作用により、ダメージによるキューティクルの損傷抑制効果をもたらされることが報告されている。また、超硫黄分子を多く含む毛髪は高い強度を示すことも判明している。このことから、超硫黄分子は毛髪の強度に関与するコルテックス領域など、キューティクル以外にも多く存在することが想像され、髪において多様な役割を担っている可能性があると考え、超硫黄分子の役割を解明するため、髪における詳細な分布や導入による変化を調べた。

①コルテックスにおける超硫黄分子の局在

パラ様コルテックスとオルト様コルテックスを染め分けることができるFS-SR101染色の結果とSSP4染色の結果を比較したところ、SSP4染色の蛍光パターンは、オルト様コルテックスを示すSR101の蛍光パターンと類似していた。超硫黄分子は、オルト様コルテックスと同様の領域に存在することが分かった(図1)。

図1:コルテックスにおける超硫黄分子の局在

②メデュラにおける超硫黄分子の局在

1.メデュラにはSSP4染色の蛍光強度がコルテックスやキューティクルよりも強い領域が存在しており、メデュラの一部に非常に多くの超硫黄分子が含まれていることが分かった(図2)。

図2:メデュラにおける超硫黄分子の局在

2.メデュラありの毛髪はメデュラなしの毛髪に比べて、超硫黄分子を約1.2倍多く含むことが分かった(図3)。

図3:超硫黄分子の定量値比較(メデュラの有無)

3.空隙が多いブラックメデュラ(黒M)と空隙が少ないホワイトメデュラ(白M)での比較では、ブラックメデュラの方が超硫黄分子を多く含むことが分かった(図4)。

図4:超硫黄分子の定量値比較(ブラックメデュラ、ホワイトメデュラ)

③超硫黄分子導入部位の可視化

超硫黄分子が失われた毛先に超硫黄分子の導入を行い、SSP4染色の結果を観察した。その結果、もとから超硫黄分子を多く含む根元の蛍光パターンに近づくことが分かった。毛髪には超硫黄分子が存在しやすい環境があり、導入ではそのような領域に供給されていることが考えられる(図5)。

図5:超硫黄分子導入部位の可視化

結果として、超硫黄分子がオルト様コルテックスと同様の領域に多く存在することが判明したことにより、毛髪の柔軟性やしなやかさ、くせに影響を与えている可能性が考えられる。また空隙の多いブラックメデュラの方が多くの超硫黄分子を含んでいることが明らかとなり、メデュラの構造形成に超硫黄分子が関与していることが考えられ、メデュラに知見がある同社として、超硫黄分子とメデュラとの関係を引き続き調べていきたいと考えている。さらに、外部から導入した超硫黄分子は、生来の超硫黄分子と類似した分布パターンを示したことから、毛髪が元来持っている結合であり重要な成分である超硫黄分子は、失われても同社の手によってもとの状態に回復できる可能性を見出した。

化粧品研究開発部第二研究所の河内佑己研究員(写真)は、「学会発表を通して業界内で多くの反響をいただき、超硫黄分子が毛髪科学において非常に可能性に満ちた存在であることを再確認しました。これからの発展の一助となれるよう研究を深めて参ります。今後は、超硫黄分子が毛髪の健康や美しさにどのように関与しているのか解明し、化粧品への応用を実現します」とコメントを発表した。