キリンホールディングス(HD)と同HD傘下のファンケルおよびブラックモアズは3月5日、共同で会見を開き、3社の協業体制やヘルスサイエンス分野における事業戦略について発表した。冒頭、キリンHDの吉村透留取締役常務執行役員ヘルスサイエンス事業本部長は、ヘルスサイエンス分野の事業戦略について「健康志向の高まりで市場が大きく伸長する中、キリンとファンケルとブラックモアズの3社は、成長ステージに向けた協業の基盤が整った。3社の協業により、アジアパシフィック最大級のヘルスサイエンスカンパニーとして、2030年までに売上収益3000億円規模、事業収益300~330億円の企業を目指す」と述べた。
ブラックモアズは豪州を代表するナチュラルヘルス企業。キリンHDは同社に対するTOBを23年8月に完了。同じく24年9月にファンケルに対するTOBも完了し、両社はキリンHDの傘下に入った。「ブラックモアズにはヘルスサイエンス事業のグローバル展開を牽引してくれることを期待している。ファンケルは新社長である三橋英記氏(代表取締役社長執行役員)の下、ファンケルブランドのさらなる価値向上に向けた取り組みを進め、そのブランド力で海外での成長戦略を描き、実行していくことを期待している」と吉村取締役常務執行役員は述べた。
キリンHDはヘルスケアサイエンスで重要なこととして「土台の健康づくり」を挙げる。これは日々の食事や運動、休息などに加え、免疫ケアにより人間が元来持っている力を高めるアプローチを指す。土台の健康を整えることで、生活習慣病や肌の不調といった個別の健康課題の解決に効果的に取り組めるようになる。キリンHDが持つ強みを最大限に使い、お客の個別の健康課題に向き合っていく。ファンケルを傘下に迎え、より健康と美容への新たなアプローチとして、両社の強みを掛け合わせ、見た目だけとか一時的な効果にとどまらない商品やサービスを共同で開発する方針だ。
ファンケルの三橋社長は、同社の24年度の振り返り「紅麹問題や中国における苦戦により成長が鈍化したものの、売上収益は前年超えを達成した」と述べた。その要因として、新発売した基礎スキンケアの「トイロ」、リニューアル販売した最高峰の美容液「コアエフェクター」などが好調だったことに加え、アテニアのメイク落とし「スキンクリア クレンズオイル」がアットコスメで年間総合大賞を受賞するなど、ファンケルの業績を引き上げたことだ。また健康食品事業については「プレミアムカロリミット」が大幅に売り上げを伸ばし、紅麹問題が発生して以降、一時的に落ち込んだ売り上げを回復した。
その上で25年度に取り組む重点施策は①ブランドマーケティングカンパニーへの変革②海外事業の成長シナリオの策定・実行③中長期構想の策定・実行に向けた体制・基盤整備への着手である。特に化粧品事業については肌不調を解消するファンケルというポジションを確立する年にする。健康食品事業についてはシニア層および女性に向けてリソースを集中させ、健康サポート事業としてのブランドイメージを形成するとしている。
3社の展開カテゴリー重複によるカニバリの恐れについて、吉村取締役常務執行役員は「サプリメントやスキンケア、健康食品、健康飲料の分野では、アジアパシフィックに広く展開しながらも、各ブランドはそれぞれが強みを発揮できるエリアで、ポジションを明確に棲み分ける。日本、豪州、中国、東南アジアにおけるマーケットリーダーの地位を強固なものにすべく、エリア特性に合った成長戦略を描く」と説明した。
この戦略の鍵を握るのは「プラズマ乳酸菌」だ。プラズマ乳酸菌関連商品は、飲料やサプリメント、ヨーグルトなど様々な剤形で生活者に届き大きく伸長しているが、まだまだ素材としての高付加価値化は可能だという。国内での基盤を強固なものにしながら、ブラックモアズの販売機能を活用し、海外展開も進める。具体的には3月5日「ブラックモアズ台湾」などのECサイトでプラズマ乳酸菌を配合した商品「澳佳寶® 4 效特攻億菌革命プラズマ乳酸菌粉末」を台湾向けに発売。今後は豪州、タイ、ベトナムなど、毎年、展開するエリアを増やしていく。
今回のキリンHDの台湾進出について、ブラックモアズCEO兼マネージングディレクターのアラスター・シミントン氏は、次のようにコメントした。「この商品を台湾で発売できることをうれしく思う。これは、ブラックモアズとキリンHDのヘルスサイエンス事業の拡大戦略における新たな重要なマイルストーンだ。過去40 年にわたり、ブラックモアズはアジアで確固たる地位を築き、様々な市場で消費者の信頼とロイヤリティを獲得してきた。これまでの当社の成功は、製品の品質と現地の規制環境、そして消費者ニーズに対する深い理解の上に築かれている。台湾はブラックモアズにとって、高品質で信頼性の高い製品をより多くの消費者にお届けできる魅力的な市場だ。その市場ニーズに合わせた商品を提供するために、現地消費者に対するインサイトと専門知識を活かした献身的な現場のチームを誇りに思う。成長を続ける中で、アジアパシフィック地域全体へ高品質なナチュラルヘルスソリューションを提供することに引き続きコミットしていく」。
3社のノウハウを「フルオープン」(吉村取締役常務執行役員)にすることでR&Dを加速させる考え。協業による強力なシナジー効果は出始めている。