御木本製薬は、産官学連携の平成28 年度みえ農商工連携推進ファンド助成金交付事業よる共同研究をもとに、緑藻ナガミルCodiumcylindricu m コディウム シリンドリクム から、独自技術によりシフォナキサンチン(以下SPX・※1) を含んだ新たな海藻由来成分「ナガミルエキス」を開発した。ナガミルエキスは、抗酸化作用および抗老化作用を併せ持つことから、複合的なエイジングケアが期待されている。この成果は、2023 年9 月19 日から開催された日本水産学会秋季大会で発表した。今後、自社の製品開発に応用する考えだ。
SPXは、緑藻ナガミルなど特定の緑藻にのみ含まれている色素成分である。抗肥満作用や抗炎症作用など、さまざまな生理活性作用を持つことが知られており、様々な産業への活用が期待されている。御木本製薬は、SPX が強力な抗酸化作用を持つアスタキサンチンやフコキサンチンなどの他のカロテノイド色素成分と構造がよく似ていることに着目し、活性酸素種の除去する作用を指標に抗酸化作用について検討した。
その結果、SPX を含む「ナガミルエキス」にアスタキサンチンやフコキサンチン同様、活性酸素種を除去する作用があることを発見。そのため、活性酸素が関与する皮膚の光老化 シワの発生、皮膚のハリ、弾力低下を緩和する効果が期待できる。
また、SPX はナガミルの湿重量の0.01% しか含まれないとても貴重な成分でありながら、少量でも効果が期待されることが分かっている。そこで、三重県産の緑藻ナガミルにSPX がより多く蓄積される時期を特定し、7年の歳月をかけて超臨界技術(※2)を応用した「ナガミルエキス」の製法(※3)を開発。この技術により、環境に優しく安全性の高い原料開発を実現した。
皮膚老化で悩みが多いシワ、ハリ、たるみの主な原因となるのは、コラーゲンやエラスチンに代表されるECM(※5)の変性である。例えば、エラスチンは古くなると「分解 線維芽細胞への取込み 再生」と常に新しいものへ作り変えられ、皮膚のハリを維持している。このような皮膚のハリの土台つくりに関わる仕組みのことをECM リサイクルシステムといい、御木本製薬ではこのアプローチによる真皮ケアに着目し、昨年度(※6)に引き続き研究を進めた。
ECMのうち、エラスチンのリサイクルシステムの関連因子である「Neu-1(※5)」は、古くなって分解されたエラスチンを線維芽細胞へ取り込む際に関わるタンパク質である 。線維芽細胞に「ナガミルエキス」を作用させることにより、「Neu-1」の発現量を増加させることが分かった。古くなって分解されたエラスチンの線維芽細胞への取り込みが促進され、さらにエラスチンが新しくつくられることで、真皮からハリのある皮膚へと生まれ変わりにつながる。
※1シフォナキサンチン(SPX):カロテノイド色素の一種で、陸上の高等植物には含まれず、ナガミルなど一部の緑藻にのみ含まれている成分である。抗肥満作用、抗炎症作用、ガン細胞のアポトーシス誘導作用など、少量で強力な生理活性作用を持つことが知られており、食品や医薬品分野などで注目されている。
※2超臨界技術:全ての物質で温度、圧力が臨界点を超えた状態を超臨界流体と言い、気体と液体の性質を兼ね備えている。粘度が低く高拡散する気体に近い性質で、細部にまで浸透が可能であること、物質の溶解性に優れる液体に近い特徴がある。これにより、従来のエキス成分の製法上問題となっていた抽出溶媒の廃液量を削減でき、かつ、残留物による人体への影響を抑えることができる。
※3ナガミルエキスの製法:ナガミルの生育環境が限定的で、藻体に含まれるSPX 量がごく僅かであることから、研究において貴重なSPX を含むエキス成分を効率的かつ高濃度で得られる製法を開発した(特許出願中:特願2023-150554)。
※4ECM:コラーゲンやエラスチンなど、真皮において線維芽細胞の間を埋める成分の総称である。細胞にとって物理的な足場となるだけでなく、組織の形態や恒常性の維持など、生体反応にとって重要な働きをすることが分かってきている。
※5Neu-1:ノイラミニダーゼ-1 とも言い、エラスチンECM リサイクシステムにおいて中心的な役割を果たすエラスチン受容体複合体の一つ。Neu-1 の活性が高まることで、線維芽細胞周辺に蓄積された断片化したエラスチンが線維芽細胞内へ取り込まれやすくなる。取り込まれたエラスチンは、細胞内で分解されてエラスチンの材料となり、やがて新たなエラスチンが再生されると考えられている。
※6「パールシルク®」のECM リサイクル作用:令和4 年度 日本水産学会 秋季大会にて学会発表したコラーゲンECM リサイクルシステムに関する発表内容のこと。